便秘解消の鍵は「酪酸」と「胆汁」が握っている!

この記事のポイント


腸活に興味がある人であれば酪酸(らくさん)や胆汁(たんじゅう)という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか? 酪酸は酪酸菌という善玉菌によって作られる物質で腸内環境や身体の健康を維持するうえでとても大切な物質です。また、胆汁は脂肪を消化するために分泌される消化液です。

実は、この酪酸と胆汁が便秘解消の鍵を握っていることがわかってきました。そこで今回は、便秘解消の観点から「酪酸」と「胆汁」にスポットを当てて解説していきたいと思います。最後に食事のポイントも述べているので、便秘に悩んでいる人はぜひ最後まで読んでみてください。


【筆者】山口 幸三

  • 2003年:北海道大学農学部 卒業
  • 2005年:北海道大学大学院農学研究科 修士課程 修了
  • 2005年~2017年:協和発酵工業株式会社(現 協和キリン株式会社)
    がんや腸内細菌に関するプロジェクトのサブリーダーとして研究を牽引。
  • 2019年:株式会社フローラボ設立
腸内環境に関する専門知識を背景に腸活関連の事業を推進。現在は、腸内フローラ解析にもとづいたパーソナル腸活(その人に合った腸活)のサポート、腸活ダイエットのサポート、腸活勉強会の主催などを行っている。


1.腸内フローラが移ると便秘も移る?!


今回の記事では、腸内環境と便秘の関係について調べたとても興味深い論文をもとに解説していきます。(参考文献:Sci Repこの研究で行われた実験は下記のとおりです。

<便秘グループ>

  • 6年以上便秘に悩んでいる人6名を連れてきて、それぞれのう〇ちを回収しました。
  • 回収したう〇ちを6匹のマウス(ねずみ)に移植しました(食べさせました)。
  • このマウスを「便秘マウス」と呼ぶことにします。

<普通グループ>

  • 便秘ではない人3名を連れてきて、それぞれのう〇ちを回収しました。
  • 回収したう〇ちを3匹のマウスに移植しました(食べさせました)。
  • このマウスを「普通マウス」と呼ぶことにします。
  • 8週間後、便秘マウスと普通マウスの腸内環境を解析しました。

実験の全体像

「う〇ちの移植」というと意味が分からないかもしれませんが、腸内フローラの研究の世界ではよくやられている手法です(ねずみにはう〇ちを食べる習性があるので)。

そして、この実験の結果、なんと便秘の人のう〇ちを移植されたマウスは便秘になってしまったのです。まさに、「人からマウスに便秘が移る」という現象が確認されたのです。

腸内フローラが移ると便秘も移る

便秘になってしまったマウスのおなかの中ではいったい何が起こっているのでしょうか? そこで、便秘マウスと普通マウスの腸内環境が解析されました。


2.便秘だとおなかの中の酪酸と胆汁が減る


便秘マウスと普通マウスの腸内環境を比較したところ、便秘マウスには以下のような特徴がありました。
  • 未知の菌が多かった。
  • 菌の種類が多かった。
  • 酪酸と胆汁の濃度が低かった(量が少なかった)。
この研究では酪酸と胆汁にスポットが当てられていたので、酪酸と胆汁について解説しておきます。


2-1.酪酸の働き

酪酸は酪酸菌によって腸の中で作られる物質で身体にとってさまざまなよい効果があります。具体的には、「大腸のエネルギー源になる」「腸のバリア機能を強くする」「炎症を抑える」「ダイエット効果がある」などです。

酪酸の効果

便秘解消という観点で見ると「大腸のエネルギー源」としての働きが大きいでしょう。大腸が正常に収縮して、う〇ちを肛門方向に運ぶためのエネルギーになるからです。このことからも、酪酸が便秘解消にとても大切であることがわかると思います。


2-2.胆汁の働き

胆汁は脂肪を消化するために分泌される消化液です。肝臓で作られた胆汁は胆のうに溜められた後、食事で入ってきた脂肪を消化するために十二指腸に分泌されます。

十二指腸に分泌された胆汁のほとんど(9割以上)は小腸末端から吸収され肝臓に戻っていきます。このように、胆汁は「肝臓→胆のう→十二指腸→小腸→肝臓」というふうに循環しているのです(これを腸肝循環といいます)。

胆汁の移動

しかし、小腸で吸収しきれなかった一部の胆汁が大腸に流入します。そして、大腸に流入した胆汁がう〇ちを柔らかくしてくれるのです。

実際、大腸に流入する胆汁の量が多いと「胆汁性下痢」という下痢になります。また、便秘薬の一つ「グーフィス」は、小腸での胆汁の吸収を抑えることで、大腸に流入する胆汁の量を増やしてう〇ちを柔らかくしてくれる薬です。

<参考記事>
食後にお腹をくだす「胆汁性下痢」の原因と対処法を詳しく解説!


このように、大腸に流入する胆汁の量が多いと便秘解消につながるのです。


3.酪酸と胆汁の量を増やすと便秘が解消する


便秘における酪酸と胆汁の役割がわかったところで上記の研究に戻りましょう。上記の研究には続きがあります。便秘マウスに酪酸と胆汁を2週間飲ませたところ、(予想通り?!)便秘が解消したのです。

酪酸と胆汁の投与で便秘解消

このように、酪酸と胆汁の量を増やすことが便秘解消に効果的であることが証明されました。このことから、腸活によって便秘解消をするためには、お腹の中の酪酸や胆汁の量を増やすことが大切であることがわかります。

ただ、酪酸や胆汁を口から摂取するというのは現実的ではありません(マウス実験なら可能ですが、、)。また、胆汁には注意しなければならない点もあります。これらを踏まえたうえで、最後に食事の注意点を述べていきたいと思います。


4.食事の注意点


4-1.酪酸を増やす食事

酪酸は酪酸菌によって作られます。そのため、お腹の中の「酪酸菌を増やす」「酪酸の原料を増やす」ということを意識するとよいでしょう。そして、この二つの役割を同時に果たしてくれるのが水溶性食物繊維です。そのため、水溶性食物繊維を積極的にとることがお腹の中の酪酸を増やすことにつながります。

水溶性食物繊維が多い食材(例)


4-2.胆汁を増やしすぎるのは好ましくない

続いて胆汁についてです。

胆汁は脂肪を消化するために分泌される消化液です。そのため、胆汁の分泌量を増やすためには油っぽいものをたくさん食べればよいのです。しかし、胆汁が増えすぎるのは実は健康にとって好ましくありません。大腸の中に悪玉菌がたくさんいる場合、大腸に流入した胆汁は悪玉菌によって発がん促進物質に変換される可能性があるからです。(※発がん促進物質:発がん物質の働きを強くする物質のこと)

実際、大腸に流入した胆汁が大腸がんや肝臓に関与していることも知られています。

<参考記事>
肥満に伴う肝臓がんの発症には腸内細菌が関係している?!


また、単純に考えても「便秘解消のために油っぽいものをたくさん食べる」というのは健康によくなさそうですよね。したがって、便秘解消のためには胆汁よりも酪酸を味方につけることを心がけていきましょう。


5.まとめ

  • 便秘の人のう〇ちをマウスに移植するとマウスも便秘になる。
  • 便秘マウスの腸の中を解析すると酪酸と胆汁が少なかった。
  • 便秘マウスに酪酸や胆汁を飲ませると便秘が解消した。このことからも、便秘解消の鍵は酪酸と胆汁が握っていると言える。
  • 胆汁を増やしすぎるのは健康にとって好ましくない。そのため、胆汁よりも酪酸を味方につけた方がよい。
  • お腹の中の酪酸を増やすためにも水溶性食物繊維を意識した食事を心がける。
今回は、学術論文を参考にしながら便秘と腸内環境の関係について解説してきました。健康的に便秘を解消するためにも、お腹の中の酪酸を増やすことを意識して食生活を整えていきましょう。



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