食後にお腹をくだす「胆汁性下痢」の原因と対処法を詳しく解説!


朝ごはんや昼ごはんの後に便意を感じることはよくあります。これは「胃・結腸反射」と呼ばれるもので、胃への刺激が結腸(大腸の大部分を占める部分)に伝わって便意をもよおす現象です。これは正常な反応なので、特に気にする必要はありません。

ところが、食事の後に決まって下痢になるときは少し注意が必要です。「食事(特に朝食)の後、30分~2時間後にお腹をくだす」という症状が続いている場合は「胆汁性下痢」(たんじゅうせいげり)の可能性があります。


下痢は日常生活に支障をきたすことがあるため、ストレスの要因にもなります。 ただ、原因がわかれば対処することは可能です。

そこで今回は「胆汁性下痢が生じるメカニズムと対処法」について解説していきます。「朝食後に下痢になりやすい」や「下痢止め薬が効かない」などの悩みを抱えている人は、ぜひ参考にしてみてください。

【筆者】山口 幸三

  • 2003年:北海道大学農学部 卒業
  • 2005年:北海道大学大学院農学研究科 修士課程 修了
  • 2005年~2017年:協和発酵工業株式会社(現 協和キリン株式会社)
    がんや腸内細菌に関するプロジェクトのサブリーダーとして研究を牽引。
  • 2019年:株式会社フローラボ設立
腸内環境に関する専門知識を背景に腸活関連の事業を推進。現在は、腸内フローラ解析にもとづいたパーソナル腸活(その人に合った腸活)のサポート、腸活ダイエットのサポート、腸活勉強会の主催などを行っている。

胆汁の分泌と胆汁の働き


まずは「胆汁性下痢」の名称にも使われている「胆汁」について理解を深めましょう。

胆汁とは「脂肪の消化・吸収を助ける消化液」のことです。胆汁は以下のように分泌されます。

<胆汁の分泌>
  • 胆汁は肝臓で作られた後、肝臓の近くにある「胆のう」という臓器に保存される。
  • 食事の刺激が伝わると、胆のうに保存されている胆汁が十二指腸に分泌される。


また、胆汁は以下のように働いて脂肪の消化・吸収を助けます。

<胆汁の働き>
  • 十二指腸で食べたものと胆汁が混ざり合う。
  • 胆汁に含まれる「胆汁酸」という成分が脂肪と反応する(これによって脂肪は分解されやすくなる)。
  • その後、脂肪は脂肪分解酵素(リパーゼ)によって分解され、小腸から吸収される。


このように、「胆汁は脂肪の消化・吸収を助ける消化液」ということを理解しておきましょう。


胆汁性下痢が生じるメカニズム


上述のとおり、胆汁は十二指腸に分泌されます。その後、食べたものと一緒に小腸を通過します。

そして、多くの栄養成分が小腸から体内に吸収されるのと同じように、胆汁も小腸から吸収されます。小腸で吸収された胆汁は「門脈」という血管を通って再び肝臓に戻ります。

つまり胆汁は、「肝臓で作られる → 胆のうに保存される → 十二指腸に分泌される → 小腸から吸収される → 肝臓に戻る」というふうに循環しているのです。これを専門用語で「腸肝循環」と言います。


ただ、小腸ですべての胆汁が吸収されるわけではありません。小腸で吸収しきれなかった一部の胆汁は大腸まで届きます。そして、大腸に到達した胆汁が下痢の原因になるのです。


胆汁は大腸において下剤のように働きます。大腸からの水分の吸収を抑制したり、腸管内への水分の分泌を促したりするのです。これが下痢になってしまう理由です。

ただ、健康な人の場合、大腸に到達する胆汁が少しぐらい多くても下痢になることはありません。しかし「胆汁に反応しやすい体質」の人の場合は、大腸に到達した胆汁が原因で下痢になってしまいます。

また、手術が原因で胆汁性下痢になることもあります。例えば、胆のうや盲腸を手術で摘出したときなどです。

胆のうを摘出すると、胆汁が過剰に分泌されるようになるため、小腸からの吸収が追いつかずに胆汁が大腸まで到達します。また、盲腸の手術をするときに小腸を一部切除すると、胆汁が吸収されにくくなってしまいます。


このように、「体質」や「手術」など、自分では対処しづらい原因によって胆汁性下痢は生じてしまうのです。


胆汁性下痢に特徴的な症状と対処法:コレバイン錠と水溶性食物繊維


胆汁性下痢には、「食事(特に朝食)のあと、30分~2時間後に下痢になる」や「下痢止め薬が効かない」という特徴があります。

特に、下痢になるタイミングは大きな特徴です。もし頻繁に下痢になるようなら、いつ便意をもよおしているか注意して確認してみてください。

また、胆汁性下痢に有効な薬として、「コレバイン錠」という薬があります。


(参照:田辺三菱製薬


コレバイン錠は本来、血液中のコレステロール値が高い患者さんが飲む薬です。なぜなら、コレバイン錠には「腸内でコレステロールを吸着して排泄する」という働きがあるため、結果的に血液中のコレステロール値を下げてくれるのです。

それでは、なぜコレバイン錠が胆汁性下痢に効くのでしょうか?

その理由は「胆汁の主成分である胆汁酸はコレステロールの一種」だからです。つまり、コレバイン錠は腸管内で胆汁酸を吸着してそのまま排泄してくれるのです。その結果、大腸の胆汁酸が少なくなり、下痢を防ぐことができます。


コレバイン錠は医薬品なので、必ず医師の指導のもとで服用するようにしてください。


また、食生活に注意することも大切です。上述のとおり、胆汁は脂肪の消化・吸収を助ける消化液です。したがって、脂肪の摂取を控えることで胆汁の分泌量を減らすことができます。特に、ラードやバターなどの常温で固体の脂は胆汁の分泌量を増やすので、これらの脂肪には注意しましょう。


また、水溶性食物繊維(大麦シリアルなどに多く含まれる食物繊維)を積極的に摂取するようにしましょう。なぜなら、水溶性食物繊維には腸内でコレステロールを吸着して排泄する働きがあるからです。つまり、水溶性食物繊維は腸の中でコレバイン錠と同じように働いてくれるのです。


※ ネバネバ系の野菜や海藻にも水溶性食物繊維は含まれています。ただ、これらに含まれている水溶性食物繊維はあまりコレステロールを吸着してくれません。(参考文献:J Am Assoc Nurse Pract


このように、胆汁性下痢に対しては食生活を意識することである程度対処することは可能です。そのため、コレバイン錠などの医薬品だけでなく、食生活を見直すことも検討してみるとよいでしょう。

まとめ

  • 胆汁の多くは小腸で吸収される。しかし、小腸で吸収しきれなかった胆汁が大腸に到達して下痢を引き起こすことがある。これを「胆汁性下痢」という。
  • 胆汁性下痢には「食事(特に朝食)のあと、30分~2時間後に下痢になる」「下痢止め薬が効かない」などの特徴がある。
  • 胆汁性下痢にはコレバイン錠という薬が有効である。また、脂肪の摂取を控えたり水溶性食物繊維をたくさん摂取したりすることも大切である。



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