肥満に伴う肝臓がんの発症には腸内細菌が関係している?!

この記事のポイント

「肥満は万病の元」と言われることがあります。実際、太っている人は太っていない人よりも、糖尿病や心筋梗塞、がんなどを発症する割合が高いです。そして、これらの病気の発症には腸内細菌(私たちのお腹の中にいる数多くの細菌)が関係していることもわかってきました。

そこで今回は、「肥満による肝臓がんの発症には腸内細菌が関係している」という驚きの内容を紹介します。(参考文献:Nature

また、肝臓がんを予防するための食事についても述べていきます。肝臓がんだけではなく大腸がんの予防にもつながるので、普段の食生活を見直すヒントにしてみてください。


【筆者】山口 幸三

  • 2003年:北海道大学農学部 卒業
  • 2005年:北海道大学大学院農学研究科 修士課程 修了
  • 2005年~2017年:協和発酵工業株式会社(現 協和キリン株式会社)
    がんや腸内細菌に関するプロジェクトのサブリーダーとして研究を牽引。
  • 2019年:株式会社フローラボ設立
腸内環境に関する専門知識を背景に腸活関連の事業を推進。現在は、腸内フローラ解析にもとづいたパーソナル腸活(その人に合った腸活)のサポート、腸活ダイエットのサポート、腸活勉強会の主催などを行っている。


1.肝臓がんの主な原因

まず、肝臓がんの主な原因を確認しておきましょう。

肝臓がんの原因の一つとして、「B型肝炎ウィルス」や「C型肝炎ウィルス」などのウィルス感染があります。また、お酒の飲み過ぎも肝臓がんの原因になります。実際、私の祖父は肝臓がんで亡くなりましたが、その原因はお酒の飲み過ぎだったと聞きました。

また、その他の原因として、「ピーナッツなどに生えたカビ」があります。ナッツ類には、強力な発がん物質(アフラトキシンといいます)を作るカビが生えることがあるためです。そのため、カビの生えたナッツ類は食べないようにしてください。

そして、今回紹介する「肥満」も肝臓がんの原因になります。

肝臓がんの主な原因

それでは、肥満による肝臓がんに腸内細菌がどのように関わっているか確認していきましょう。

2.悪玉菌は発がん促進物質を作る

あなたは「発がん促進物質」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 「発がん物質」に似ていますが、微妙に意味が異なります。発がん促進物質とは、「発がん作用はないが、発がん物質の作用を強くする」という物質です。

なんとなく、「体に悪いもの」「がんの原因になりそうなもの」というイメージができたと思います。実は、肥満に伴う肝臓がんの発症には、この発がん促進物質が関わっています。その概要をまとめると以下のようになります。

  1. 太ると発がん促進物質を作る悪玉菌が増える。
  2. 発がん促進物質は腸から吸収される。
  3. 腸から吸収された発がん促進物質は肝臓に届けられる。

大腸で作られた発がん促進物質は肝臓へ

腸内細菌と肝臓がんの関係が「発がん促進物質」でつながっていることがわかると思います。まずはこの流れを理解しておきましょう。

2-1. 太ると発がん促進物質を作る悪玉菌が増える

発がん促進物質を作る腸内細菌は主に「クロストリジウム」という悪玉菌です。そして、太ったマウス(ねずみの一種)と普通のマウスの腸内細菌を調べたところ、太ったマウスではこの悪玉菌が2倍に増えていることがわかりました。さらに、血液中の発がん促進物質は3倍に増えていたのです。

肥満マウスの腸内細菌叢と血液中DCA濃度
(参考文献「Nature」の画像を一部編集)

このように、太ると腸内環境が悪化して、発がん促進物質がたくさん作られてしまうのです。

2-2. 発がん促進物質は腸から吸収される

2-3. 腸から吸収された発がん促進物質は肝臓に届けられる

2-2と2-3はまとめて解説します。
悪玉菌によって作られた発がん促進物質は腸から吸収されます。そして、他の栄養成分などと同じように、門脈という血管を通って肝臓に運ばれます。そのため、肝臓は他の臓器よりも発がん促進物質の影響を受けやすいのです。

DCAは門脈を通って肝臓に運ばれる

このように、太っているとやせている人よりも多くの発がん促進物質が肝臓に届けられます。その結果、肝臓がんの発症頻度が上がってしまうのです。

それでは、肝臓がんを予防するためにはどうすればよいでしょうか? ここまでの内容を踏まえた上で、肝臓がんを予防するための食事のポイントについて述べていきます。

3.肥満に伴う肝臓がんを予防する食事

肥満に伴う肝臓がんを防ぐためには、できるだけ発がん促進物質が作られないようにすることが大切です。そのためには、「発がん促進物質の原料を減らすこと」と「発がん促進物質を作る悪玉菌を増やさないこと」が重要です。

発がん促進物質の原料は「胆汁」(たんじゅう)に含まれています。胆汁とは、脂肪を消化・吸収するために分泌される消化液です。

胆汁の分泌

当然、脂肪の摂取量が多いと胆汁の分泌量も増えます。つまり、発がん促進物質の原料が増えてしまうのです。

また、上述のとおり、発がん促進物質を作る腸内細菌は主に「クロストリジウム」という悪玉菌です。そして、この悪玉菌は脂肪の摂取量が多いと増えることがわかっています。


つまり、脂肪の摂りすぎは「① 発がん促進物質の原料(胆汁)を増やす」「② 悪玉菌を増やす」という2つの理由で、発がん促進物質を増やしてしまいます。このことを理解しておけば、「脂肪の過剰摂取が肝臓がんを招く」ということがわかると思います。

脂肪の過剰摂取が発がん促進物質を増やす

以上を踏まえると、太っている人は「脂肪の摂りすぎ」に注意することがとても大切です。脂肪の摂取量を控えれば、発がん促進物質の量も減って、肝臓がんを予防できると考えられるからです。

また、食物繊維や発酵食品などを利用して腸内環境を整えておくことも重要です。発がん促進物質を作る悪玉菌を増やさないためにも、腸内環境をビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌優位な状態に保っておくようにしましょう。

4.まとめ

  • 太っていると発がん促進物質を作る悪玉菌がお腹の中で増える。
  • 発がん促進物質は腸から吸収されて肝臓に運ばれる。そのため、太っている人はやせている人よりも肝臓がんになりやすい。
  • 肝臓がんを予防するためには脂肪の過剰摂取を避けたり腸内環境を整えたりすることが重要である。

今回紹介した発がん促進物質は、肝臓がんだけでなく大腸がんの原因にもなります。そのため、脂肪の過剰摂取を控えることは大腸がんの予防にもつながります。

また、発がん促進物質を作る悪玉菌を減らすために、ダイエットをすることも大切です。いつまでも健康でいられるように、腸内環境の改善のみならずダイエットについても一度検討してみてはいかがでしょうか?



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