「便秘は身体に悪い」ということはなんとなくイメージできると思います。「お腹の中に老廃物がずっと溜まっているのだから、身体にいいわけがない」「便秘だと大腸がんになりやすい」という意見もよく耳にします。ただ、これらはあくまで推論です。
このなんとなくのイメージや推論が本当に正しいのか、統計学的に調査した研究があります。そこで今回は、便秘がどの程度身体によくないのかについて、学術論文をもとに解説していきます。この記事を読むことで、「便秘が身体によくない」ということをある程度根拠をもって理解できるようになるでしょう。
1.研究の概要
今回は2010年に報告された学術論文をもとに解説していきます。研究の概要は以下のとおりです。(参考文献:Am J Gastroenterol)
・3933名のアメリカ人にアンケート調査を行い、お腹の不調がある人をグループに分けた。
<調査対象者の内訳>
※過敏性腸症候群と診断された人はその他の症状には含まない(例:下痢型の過敏性腸症候群と診断された人は「過敏性腸症候群」とし、「下痢」からは除外した)
・症状のある人とない人で15年間の生存率を比較した。
<調査対象者の内訳>
- 過敏性腸症候群の人:397名
- 慢性的な便秘の人:622名
- 慢性的な下痢の人:694名
- 胃の不快感(吐き気、食欲不振など)がある人:68名
- 過去に腹痛を6回以上経験したことがある人:596名
※過敏性腸症候群と診断された人はその他の症状には含まない(例:下痢型の過敏性腸症候群と診断された人は「過敏性腸症候群」とし、「下痢」からは除外した)
・症状のある人とない人で15年間の生存率を比較した。
それでは15年後の生存率はどうだったか結果を見てみましょう。
なお、ここからは説明しやすいように、便秘の人たち(622名、平均年齢59才)を「便秘グループ」、便秘じゃない人たち(3311名、平均年齢53才)を「普通グループ」と呼ぶことにします。
2.便秘だと寿命が短くなる?!
便秘グループと普通グループの15年後の生存率は下のグラフのようになっていました。
調査開始から15年後、便秘グループの生存率は73%、普通グループの生存率は85%でした。なんと便秘グループの生存率が12%も低かったのです。つまり、「便秘だと寿命が短くなる」という結果が得られたことになります。これは少しショッキングではありますが、事実なので仕方ありません。
※平均年齢の差(便秘グループ:59歳、普通グループ:53歳)が気になるかもしれませんが、生存率を算出するときに平均年齢や男女差、喫煙歴などの便秘以外の要素は補正したうえで算出されているようです。
それでは、なぜ便秘だと寿命が短くなってしまうのでしょうか? その理由について深掘りしていきたいと思います。
3.なぜ便秘だと寿命が短くなるのか?
便秘グループと普通グループにおいて、15年間で亡くなった人の死因が解析されました。中枢神経系、心血管系、呼吸器系、癌など死因別に解析されましたが、便秘グループで明確に増えている病気というのは特にありませんでした。
※ 厳密に言うと、便秘グループでは大腸がんや直腸がんが約2倍、心血管系の病気(心筋梗塞など)が約1.6倍、呼吸器系の病気(肺炎など)が約2.1倍に増えている傾向はありました。ただ、統計学的には意味のない差(≒誤差)のようです。
つまり、「便秘だから〇〇の病気になりやすい」と結論付けることはできなかったのです。よく「便秘だと大腸がんになりやすい」と言われることもありますが、統計学的には「大腸がんが増えている」というわけでもありませんでした。
このように、便秘だからといって「〇〇病になりやすい」と言えるわけではありません。全体的にさまざまな病気にかかりやすくなり、それが生存率の低下につながっていると理解してください。
このようなことが起こる原因の一つとしてはやはり腸内環境の悪化が考えられます。便秘の人は腸内環境が悪化しており、健康にとってよくない物質(硫化水素やインドールなど)を作る悪玉菌が増えて、逆に善玉菌が減っているのです。
<参考記事>
便秘の人は腸内環境が乱れている?!リアルな実態を研究者が解説!
そして、悪玉菌によって作られた物質(硫化水素やインドールなど)は腸から吸収され、血流に乗って全身を巡ります。慢性的にこのような状況にさらされることによって身体にダメージが蓄積していった結果、便秘グループの生存率が低くなったのではないかと考えられます。
<参考記事>
善玉菌と悪玉菌が作る物質とは?!腸が体全体に影響する理由を解説!
4.過敏性腸症候群や下痢、腹痛は寿命に影響しない
最後に、便秘以外のグループの生存率を確認していきましょう。結論を言うと、過敏性腸症候群、下痢、胃の不快感、腹痛(過去に6回以上)は寿命に影響しませんでした。
グラフを見ると、過敏性腸症候群や胃の不快感がある場合は15年後の生存率が高く、下痢の場合は生存率が低くなっているようにも見えます。ただ、統計学的には意味のない差(≒誤差)です。つまり、便秘の場合とは違って、過敏性腸症候群や下痢、腹痛は寿命に影響しないという結論になります。
5.まとめ
- 約4000人を対象としたアメリカの調査によると、慢性的に便秘の人はそうでない人に比べて寿命が短くなることがわかった。
- 便秘だからと言って特定の病気(大腸がんなど)にかかりやすいというわけではない。
- 過敏性腸症候群や慢性的な下痢、腹痛(過去に6回以上)の人は寿命が短くなることはなかった。