腸内細菌が移ると肥満も移る?!医療現場での出来事を紹介します!

この記事のポイント


腸内細菌が肥満の原因である

こう言われると驚く人も多いでしょう。しかし、腸内細菌が肥満の原因になっていることは、2006年以降、さまざまな研究によって証明されています。

この記事では、2006年に証明された「腸内細菌と肥満の関係」について復習した後、実際の医療現場において「腸内細菌を介して肥満が人から人に移った例」を紹介します。

「インフルエンザじゃあるまいし、肥満が人に移るってどういうこと?」と思った人はぜひ続きを読み進めてみてください。


【筆者】山口 幸三

  • 2003年:北海道大学農学部 卒業
  • 2005年:北海道大学大学院農学研究科 修士課程 修了
  • 2005年~2017年:協和発酵工業株式会社(現 協和キリン株式会社)
    がんや腸内細菌に関するプロジェクトのサブリーダーとして研究を牽引。
  • 2019年:株式会社フローラボ設立
腸内環境に関する専門知識を背景に腸活関連の事業を推進。現在は、腸内フローラ解析にもとづいたパーソナル腸活(その人に合った腸活)のサポート、腸活ダイエットのサポート、腸活勉強会の主催などを行っている。


1.腸内細菌が移ると肥満も移る:マウスの場合


冒頭に述べたとおり、腸内細菌は肥満の原因になります。このことはノーベル賞候補にも挙げられていたワシントン大学のジェフリー・ゴードン教授が2006年に証明しました。

ゴードン教授が発表した内容を要約すると以下のとおりです。(参考文献:Nature


  • 太っている人とやせている人の腸内細菌を解析したところ、太っている人にはデブ菌(正式名称はファーミキューテス)が多く、やせている人にはやせ菌(正式名称はバクテロイデス)が多かった。
  • 肥満マウスの腸内細菌を無菌マウス(腸内細菌がいないマウス)に移植すると、移植されたマウスが太った。

腸内細菌が移ると肥満も移る


<参考記事>
太る原因は「腸内細菌」にある!


ここでのポイントは「肥満マウスの腸内細菌を移植すると、移植されたマウスが太った」ということです。このことから、「腸内細菌が原因で太る」と考えられるようになったのです。

この研究成果が発表されて以降、世界中で「腸内細菌と肥満・ダイエット」の関係が研究されるようになりました。そして、その過程で実際の医療現場において「腸内細菌が移ると肥満も移る」という出来事が起こったのです。


2.腸内細菌が移ると肥満も移る:人の場合


今回紹介する事例は、米国の医療現場で実際に起こった出来事です。概要は以下のとおりです。(参考文献:Open Forum Infect Dis

  • 米国に体重66kgの普通体型の32歳女性がいた。
  • 彼女は抗生物質の服用が原因で、重い感染症を患っていた。(クロストリジウム・ディフィシル感染症)
  • 治療のために、彼女は娘の腸内細菌(=うんち)を自分の腸に移植する「便移植療法」を受けることを決意した。
  • 便移植を行ってから、彼女はどんどん太ってしまった。

患者の腸に健康な人の腸内細菌を移植するという「便移植」は、この感染症に対してとても有効です。そこで、彼女は10歳代の娘のう〇ちを自分のお腹に移植することにしたのです。


<参考記事>
驚異の治療法「便移植」がクロストリジウム・ディフィシル感染症克服の鍵


便移植のやり方:うんちの準備
便移植のやり方:移植方法は3通り
(参考文献:Scienceの図を一部編集)


便移植の効果は大変素晴らしく、母親の症状はとてもよくなりました。ところが、少しずつ体に異変が生じました。なんと見る見る体重が増えていったのです。便移植をしてから1年4か月後にはなんと11kgも体重が増えてしまいました。

体重 BMI
移植前体重66kgBMI26
移植して1年4ヶ月後体重77kgBMI33
移植して3年後体重80kgBMI34.5
※ BMI:体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)で算出される肥満指数。
日本では25以上、アメリカでは30以上が肥満とされている。


このように、便移植を行った後、母親は明らかに太ってしまったのです。さらに、便秘や原因不明の消化不良などの不調も起こすようになってしまいました。


3.肥満が移った原因とその対策


便移植で母親はなぜ太ってしまったのか?その原因が調べられました。そして、主な原因として「娘が太っていたこと」が挙げられました。

ゴードン教授の研究結果もあわせて考えると、今回のケースでは、「肥満体質である娘の腸内細菌が移植されたことにより、母親も肥満体質になってしまった」と考えることができます。まさに、インフルエンザウィルスが移るかのように、肥満体質が移ったのです。

母親からすると、感染症は治ったものの、体質も変わってしまったということになります。医療現場でこのような事例が報告されたのはこれが初めてでした。しかし、このときの教訓があったため、医師らは「便移植のドナー(う〇ちの提供者)を選ぶときは、病歴や健康状態だけでなく肥満度も考慮する必要がある」と考えるようになりました。

今回は肥満体質のドナーのう〇ちが使われたため肥満も移ってしまいましたが、もしドナーがやせていた場合は、患者がダイエットできた可能性もあります。

そのため、便移植は生活習慣病の治療に応用できるのではないかと期待されています。将来、そのようなダイエット法が開発される日が来るかもしれませんね。


4.まとめ

  • 「腸内細菌が原因で太る」ということは2006年に証明されている。
  • あるアメリカ人女性が便移植を受けたところ、その女性は太ってしまった。
  • 体重増加の原因は、「肥満体質の娘の腸内細菌」であると考えられた。
  • 腸内環境を整えることがダイエットにつながると考えられる。
腸内細菌が肥満の原因になっていることからわかるとおり、腸内環境を整えることはダイエットやリバウンド防止にとても重要です。きれいにやせるためにも、普段の食生活を見直し、良好な腸内環境を維持するよう心がけてくださいね。



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