私の場合は、高校卒業後に花粉症になりました。それ以降、毎年春になると症状が出るようになりました。ひどいときは、体全体が火照ったようになり、変な汗をかくこともありました。
花粉が飛散し始めるとなぜこのような症状が表れるのでしょうか? また、なぜ「突然」花粉症になることがあるのでしょうか?
今回は花粉症の発症メカニズムから上記の疑問に答えていきます。また「花粉症と腸内細菌との関係」についても述べていきます。これを学ぶことで、「腸内環境を整えることが花粉症の症状改善に繋がる」ということを理解できるようになります。
花粉症の発症メカニズム
私たちの体には、細菌やウィルスなどの「異物」を体から排除するための免疫機能が備わっています。花粉症とは、「体が花粉を異物とみなして、過剰な免疫反応が起こっている状態」といえます。その発症メカニズムを順に解説していきます。
ステップ1:花粉情報の伝達
花粉が粘膜や体内に侵入します。すると、体内をパトロールしている免疫細胞(マクロファージや樹状細胞)が花粉を捕まえます。そして花粉の情報をヘルパーT細胞という別の免疫細胞に伝えます。ヘルパーT細胞は「免疫の司令塔」とも呼ばれる重要な細胞です。このステップ1は、健康な人でも花粉症の人でも同じように起こります。
ステップ2:ヘルパーT細胞の変化
異物の情報を受け取ったヘルパーT細胞は、Th1細胞やTh2細胞という免疫細胞に姿を変えます。一般的に、細菌やウィルスが侵入してきた場合はTh1細胞に変身し、花粉や埃などが侵入した場合はTh2細胞に変化します。このTh1細胞とTh2細胞はバランスが非常に重要です。Th2細胞が多くなりすぎると花粉症などの「アレルギー疾患」になります。逆にTh1細胞が多くなりすぎると、自分の細胞を攻撃する「自己免疫疾患」という病気になります(リウマチやクローン病など)。
健康な人ではTh1細胞とTh2細胞のバランスが取れています。そのためこのステップ2が、花粉症の人と健康な人との分岐点になります。
ステップ3:抗体産生
Th2細胞は、B細胞という別の免疫細胞に抗体を作るよう指令を出します。抗体とは「異物を攻撃するためのミサイルのようなもの」です。指令を受けたB細胞は、花粉に対抗する抗体を作ります。この抗体のことをIgE抗体といいます。
IgE抗体には「花粉を攻撃する」という性質とは別の性質があります。それは、「肥満細胞に結合する」という性質です。肥満細胞は粘膜にある免疫細胞で、花粉症の症状に大きく関わっている細胞です。
ステップ4:花粉の再侵入
体の中でIgE抗体が作られ続けると、それに応じて、肥満細胞に結合するIgE抗体も増えていきます。そしてある時、IgE抗体の数が「十分な量」に達します。この時に花粉が侵入してIgE抗体と反応すると、肥満細胞からヒスタミンという物質が放出されます。このヒスタミンによって、くしゃみや鼻水などの症状が引き起こされるのです。
※ 「抗ヒスタミン薬」という種類の花粉症の薬は、このヒスタミンの働きを抑えるものです。
以上が花粉症の発症メカニズムになります。
ある年突然花粉症になる理由
私は高校卒業後に花粉症になりました。私のように、子供の頃は平気だったのに大人になってから花粉症になる人は多いです。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?これには、上記のステップ4が関連しています。
肥満細胞が花粉に反応してヒスタミンを放出するようになるためには、肥満細胞のまわりに「十分な量」のIgE抗体が結合する必要があります。この「十分な量」に達するまでに年単位で時間がかかるため、大人になってから発症する人が多いのです。
そのため、現在花粉症ではないからといって、将来もその状態が続くとは限りません。「ある年、突然花粉症になる」ということは誰にでもあり得ることなのです。
このことを考慮すると、現在花粉症でない人も、花粉を避けるためにマスクをすることで、将来の花粉症予防になることがわかります。
花粉症と腸内細菌の関係
最後に、花粉症と腸内環境との関係について述べます。上記のステップ2には腸内細菌が関連しています。そして、腸内環境が健全な状態であればTh1細胞とTh2細胞のバランスが整いやすくなるといわれています。
実際、「花粉症患者がビフィズス菌BB536という善玉菌を摂取することで、Th1とTh2のバランスが改善し、症状が緩和された」という実験データが論文(Clin Exp Allergy, 2006, 36, 1425)で報告されています。
さらに、幼少期の腸内環境がTh1細胞とTh2細胞のバランスに影響することも証明されています。
マウスを用いた実験では、「生まれたばかりのマウスに抗生物質を飲ませると、大人になってもTh2細胞優位の状態が継続する」ということが別の論文(J Allergy Clin Immunol, 2001, 107, 153)で報告されています。
人の場合でも、幼少期の抗生物質の服用は、花粉症、喘息、アトピーなどのアレルギー疾患にかかるリスクを上げることが数多くの論文で報告されています。
このように、腸内環境は「Th1細胞とTh2細胞のバランス」に大きな影響を与えています。そのため腸内環境を整えて、Th2細胞の過剰な働きを抑制することで、花粉症の症状改善に繋げることができます。