生後100日目までの腸内環境が子供の喘息に関係している可能性

腸内細菌はお腹の中でさまざまな物質を作っています。それらの物質は血流を介して全身を巡るため、腸内細菌は体全体の健康状態に影響します。

そのため、腸内環境の悪化がさまざまな疾患の原因になることがあります。

動脈硬化や心血管の障害、肝臓がん、自閉症、腎疾患、肥満症などは、腸内環境との関連が指摘されている疾患です。

そして今回紹介する「喘息」についても、腸内細菌の関与が指摘されています。喘息の発症メカニズムは詳細には解明されていませんが、「腸内細菌が何らかの関与をしている」ということが、国内外の研究チームによって明らかにされてきたのです。

2015年には、「腸内細菌と喘息との関係」に関する新たな発見が一流科学雑誌「Science Translational Medicine」に掲載されました。喘息と腸内細菌との関係を考える上で、重要な知見を示した論文なので、ここで内容を紹介します。

子供が喘息にかかるのを予防するためにも、将来子供を産む可能性のある女性にはぜひ参考にしていただきたい内容です。

※ 参考文献:Sci. Transl. Med., 2015, 7, 307ra152

なお、この研究はカナダのブリティッシュコロンビア大学や小児科病院の研究チームによるものです。内容は、「喘息の予防に関係している4つの腸内細菌の発見」と「実験動物を用いた検証」という2つのパートに分けられますので、それぞれ順に解説していきます。

パート1:喘息の予防に関係している4つの腸内細菌の発見

ームは、以下の方法で赤ちゃんの腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう:腸内細菌全体のバランス)を調べることによって、喘息の発症に関係していると予想される4つの腸内細菌を見つけました。

研究対象
カナダで生まれた319名の赤ちゃん


研究手順
1. 生後3か月と生後1年のときに赤ちゃんの便(うんち)を回収して、腸内細菌叢を解析しました。

※ 腸内細菌叢は便を解析することで調べることができます。

2. その後も赤ちゃんの健康状態を追跡しました。

3. 3歳のときに喘息と診断された幼児8名と喘息リスクが高いと診断された幼児14名の計22名をピックアップしました(この22名を喘息グループと呼ぶことにします)。

4. 喘息やその他のアレルギーのない健康な赤ちゃん74名をピックアップしました(この74名を健康グループと呼ぶことにします)。

5. 1の結果を利用して、喘息グループ(22名)と健康グループ(74名)の赤ちゃんの腸内細菌叢を比較しました。

腸内細菌叢の比較から分かったこと
① 生後3か月:喘息グループでは健康グループと比較して、4つの腸内細菌が明らかに減少していました。減少していたのは、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)、ラクノスピラ(Lachnospira)、ベイロネラ(Veillonella)、ロシア(Rothia)という細菌です。

② 生後1年:喘息グループと健康グループでは大きな差はありませんでした。
※ 分かりやすくするため、論文の記載内容を少し変更しているところがあります。

腸内細菌叢の比較で分かった①と②の内容はとても重要です。

フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)、ラクノスピラ(Lachnospira)、ベイロネラ(Veillonella)、ロシア(Rothia)の4菌種は、喘息グループの腸内で減っていた細菌です。つまり、これらの4菌種は「喘息の予防」に関わっている可能性があります。

また、「生後3ヶ月の時点では健康グループと喘息グループに差があったのに、生後1年の時点ではその差がなくなっていた」ということも重要な発見です。

このことは、「生まれて3ヶ月までの腸内細菌が将来の喘息リスクを規定している」ということを意味しています。そのため、論文中では生後100日目までのことを「critical window (極めて重要な期間)」と呼んでいます。

パート2:4つの腸内細菌が喘息の予防に関与していることを動物実験で検証

パート1だけでは「4つの腸内細菌が喘息の予防に関わっている可能性がある」という予想で終わってしまいます。

そこで、この予想が正しいかどうか確認するための検証実験が行われました。その内容について簡単に紹介します。

実験手順
1. 無菌マウスに「喘息グループのうんち」 or 「喘息グループのうんち+4菌種」を移植しました。前者をマウスA、後者をマウスBと呼ぶこととします。

※ 無菌マウス:体のどこにも細菌がいないマウスのこと。胎児は無菌状態なので、帝王切開で生まれた赤ちゃんマウスを出産と同時にクリーンボックス内に移せば、無菌マウスとなります。

2. オスのマウスAとメスのマウスAをかけ合わせて、マウスAの子供を産みました。

3. オスのマウスBとメスのマウスBをかけ合わせて、マウスBの子供も産みました。

4. マウスAの子供とマウスBの子供に「喘息になる物質」を投与した後に、肺や気管支の様子を確認しました。

動物実験で分かったこと
・ マウスAの子供では肺や気管支で炎症が起こっていましたが、マウスBの子供では炎症はありませんでした。
※ 分かりやすくするため、論文の記載内容を少し変更しているところがあります。

「気管支の炎症」は喘息の特徴的な症状です。つまり、マウスBの子供では喘息が予防されたことを意味しています。

実際、マウスのAの気管支では、好酸球や好中球という炎症に関わる細胞が増えていることが確認されました。

※ 好酸球や好中球というのは白血球の一種です。体内に侵入した細菌、ウィルスの排除やアレルギー反応などに関与しています。

この検証実験から、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)、ラクノスピラ(Lachnospira)、ベイロネラ(Veillonella)、ロシア(Rothia)の4菌種は、喘息の予防に重要な細菌であることが証明されました。

母親の腸内環境を整えておくことが子供の喘息予防に繋がる

喘息の予防には生後100日目までの腸内環境が重要であることが分かりました。

このことを考慮すると、妊婦の腸内環境を整えることが子供の喘息予防に繋がると考えられます。なぜなら、自然分娩の場合、赤ちゃんは母親の腸内細菌を譲り受けて生まれるからです。実際、上述の検証実験でも、腸内細菌を移植されたマウスではなく、その子供で喘息の有無が検証されています。

4つの細菌の中でも特にベイロネラ(Veillonella)という細菌は、乳酸を利用して生育します。そのため、ヨーグルトなどから乳酸菌を摂取することは、ベイロネラの数を増やすことに繋がります。

ただ、その他の細菌については、お腹の中で増やす方法が確立できていません。そのため、妊婦は「乳酸菌を摂取してベイロネラを増やしつつ、腸内環境を乱さないよう生活習慣に注意する」ということを心がけるようにしましょう。

今後、これらの4菌種と喘息との研究はさらに発展していくと思います。将来的には4菌種のサプリメント等が開発されるかもしれません。ただ現時点ではそのような商品がないため、妊婦の腸内環境を整えることで子供の喘息予防に繋げる必要があります。

妊娠中のお母さんはこのことを認識したうえで、日々の食生活に注意するようにしましょう。



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