1981年以降、日本人の死因第1位は常にがんです。実際、日本人の2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで亡くなると言われています。
ただ、死因となるがんの種類は時代とともに変化しています。昔は胃がんが多かったのに対し、近年は大腸がんが増えているのです。
そこで今回は、死因となるがんの推移を振り返った後、「大腸がんが増えている理由」や「大腸がんの予防策」について述べていきます。欧米型の食事と和食のバランスが重要であることを理解できると思います。
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- 大腸がんが増加している理由:食の欧米化と腸内細菌の関与
目次
がんの種類別死亡率の推移
冒頭に述べたとおり、死因となるがんの種類は時代とともに変化しています。1990年代半ばまでは男女ともに胃がんが1位でした。これには、漬物や味噌などの伝統的和食に含まれる塩分が影響していました。
ところが、時代とともに「肺がん」「肝臓がん」「大腸がん」が増えてきました。女性の場合、2003年には大腸がんによる死亡者数が胃がんを上回って1位になっています。また、男性では肺がん、胃がんについで大腸がんが3位になっています。
(国立がん研究センター:がん情報サービスよりグラフを引用して一部編集)
このように、日本では大腸がんが増加傾向にあります。まずはこの事実を認識しておいてください。
大腸がんが増えている背景には「食の欧米化」がある
上述のとおり、昔は「胃がん」が1位でした。実はアメリカも同じです。1920年代以前は、アメリカでも胃がんが1位だったのです。
その背景には、「肉の保存のために塩漬けが行われていた」ということがあります。アメリカでは昔から塩漬けした肉が食べられていました。そのため、塩分の過剰摂取が原因で胃がんが多かったと考えられています。
しかし、冷蔵庫や冷凍庫が普及するにつれて、肉を塩漬けする必要がなくなりました。そして、いつでも肉を食べられる状態になったので、塩分の摂取量が減って肉の摂取量が増えました。その結果、胃がんが減って大腸がんが増えてきたのです。
日本はアメリカと同じ道をたどっています。言うまでもなく、日本の食生活は数十年前から欧米化しています。子どもの好きなおかずには必ずハンバーグが入っていますし、私自身もとんかつと唐揚げが好きです。その結果、日本でも大腸がんが増えているのです。
それでは、なぜ「食の欧米化」が大腸がんの原因になるのでしょうか? その理由を腸内環境の観点から確認していきましょう。
食の欧米化が大腸がんを招く
食の欧米化によって、私たちが摂取する脂肪の量は大幅に増えています。逆に、食物繊維や発酵食品などの摂取量は減っています。
そして、脂肪の過剰摂取によって腸内で発がん促進物質が作られるようになります。また、食物繊維や発酵食品の摂取量が減ると腸内環境が悪化します。この「発がん促進物質が作られる」「腸内環境が悪化する」という2つの作用が大腸がんにつながっているのです。
※ 発がん促進物質:単独では発がん作用はない。ただ、他の発がん物質の発がん作用を強くする性質がある。
食物繊維や発酵食品が腸内環境に良いことはこのサイトでも繰り返し述べているので、ここでは詳細は省きます。これらの摂取量が減れば、当然、腸内環境は悪くなってしまいます。
一方、「脂肪の摂取量が増えると腸内で発がん促進物質が作られる」ということはあまり知られていません。そこで、次からは「発がん促進物質が作られる仕組み」について詳しく解説していきます。
(少し専門的な内容になるので、「4.大腸がんを予防するためにできること」まで読み飛ばしても構いません)。
発がん促進物質が作られる仕組み
まずは、脂肪の消化・吸収の仕組みを理解しておきましょう。脂肪の消化・吸収には「胆汁」(たんじゅう)という消化液が関わっています。
胆汁の分泌と脂肪の消化・吸収
- 胆汁は肝臓で作られた後、肝臓の近くにある「胆のう」という臓器に保存される。
- 食事の刺激が伝わると、胆のうに保存されている胆汁が十二指腸に分泌される。
- 十二指腸で食べたものと胆汁が混ざり合う。
- 胆汁に含まれる「胆汁酸」という成分が脂肪と反応する。その後、脂肪は脂肪分解酵素(リパーゼ)によって分解され、小腸から吸収される。
このように、胆汁には「脂肪の消化・吸収を助ける」という働きがあることを理解しておきましょう。
胆汁の循環
上述のとおり、胆汁は十二指腸に分泌されます。その後、食べたものといっしょに小腸を通過します。
そして、多くの栄養成分が小腸から吸収されるのと同じように、胆汁も小腸から吸収されます。そして、小腸から吸収された胆汁は「門脈」という血管を通って再び肝臓に戻ります。
つまり胆汁は、「肝臓で作られる → 胆のうに保存される → 十二指腸に分泌される → 小腸から吸収される → 肝臓に戻る」というふうに体内を循環しているのです。これを専門用語で「腸肝循環」といいます。
ただ、すべての胆汁が小腸から吸収されるわけではありません。小腸で吸収しきれなかった一部の胆汁は大腸まで届きます。そして、大腸に到達した胆汁が発がん促進物質に変わるのです。
胆汁は悪玉菌によって発がん促進物質に変換される
上述のとおり、胆汁には胆汁酸という成分が含まれます。この胆汁酸が大腸にいる悪玉菌によって発がん促進物質に変換されるのです。
なお、発がん促進物質を作るのは「クロストリジウム」という種類の悪玉菌です。また、脂肪の摂取量が多いとお腹の中でこの悪玉菌が増えます。(参考文献:Int J Syst Evol Microbiol)
<参考記事>
脂質の摂りすぎは腸内細菌バランスを「肥満型」に変える
そのため、脂肪の過剰摂取は「① 胆汁の分泌量を増やす」「② 悪玉菌を増やす」という2つの理由で、腸内の発がん促進物質を増やします。このことを理解しておけば、「脂肪の過剰摂取が大腸がんを招く」ということがわかると思います。
大腸がんを予防するためにできること
ここまで述べてきたとおり、「食の欧米化」が大腸がんの増加につながっています。「欧米型」の食事を続けていると、どうしても脂肪を摂りすぎてしまいますし、食物繊維や発酵食品などの摂取量が減ってしまうからです。
そのため、大腸がんを防ぐためには、昔ながらの和食も適度に組み合わせてバランスのよい食事を心がけることが大切です。塩分の摂りすぎが気になる人もいると思いますが、最近は減塩食品もかなり増えています。そのような食品を利用して、バランスのよい食事を心がけてみるようにしましょう。
まとめ
- 大腸がん増えている主な原因は「食の欧米化」である。
- 食の欧米化によって、脂肪の摂取量が増えたり、食物繊維や発酵食品の摂取量が減ったりしている。
- 脂肪の過剰摂取によって腸内の発がん促進物質が増える。
- 大腸がんを予防するためには、和食も適度に組み合わせてバランスの良い食事を心がけることが重要である。
食の欧米化によって、私たちの食生活は大きく変わりました。その結果、私たち日本人の腸内環境は昔に比べて悪化しています。腸内環境をよくすることは大腸がんのみならず、さまざまな体の不調を改善することにつながります。そのためにも、日々の食生活を一度見直してみるようにしましょう。