ミルクや母乳を飲むとお腹をくだす「乳児の」乳糖不耐症

牛乳を飲むと、「お腹がゴロゴロなる」「下痢になる」などの症状があらわれることがあります。 また、重い症状では胃けいれんや吐き気などを感じることもあります。このような場合、「乳糖不耐症」の可能性が考えられます。

乳糖不耐症について考えるときは、乳児と大人に分けて考える必要があります。その理由は以下の二つです。
  • 乳児はミルク(母乳)が主な栄養源なので、乳糖不耐症は日々の栄養摂取に大きく影響する
  • 乳児の乳糖不耐症には別の病気が関係している可能性がある
一方、大人の場合は乳製品以外からも栄養をとることができます。また、日本人は加齢とともに乳糖不耐症になりやすい性質があります。そのため、大人の乳糖不耐症に関しては、乳児ほど深刻ではありません。

そこで今回は、乳児の乳糖不耐症について、その原因や対処法を述べていきます。赤ちゃんの成長に関わる可能性もあるので、内容をしっかりと理解しておきましょう。

乳糖不耐症の原因

まず、乳糖不耐症の原因について説明しておきます。原因を把握しておけば、対処法を理解できるようになるからです。

母乳やミルクには乳糖(ラクトース)という糖質が含まれています。乳糖は「糖」の一種ですが、人の小腸では乳糖をそのまま吸収することができません。

乳糖を吸収するためには、小腸から分泌される「ラクターゼ」という酵素が働く必要があります。ラクターゼは乳糖を分解する酵素です。健康な赤ちゃんの場合、ラクターゼの働きが非常に活発なので、乳糖は分解されて体内へ吸収されるようになるのです。

ラクターゼによる乳糖(ラクトース)の分解

仮に、乳糖が分解・吸収されずそのまま大腸に到達したとします。すると、乳糖が大腸内で作用することにより、下痢などの症状を引き起こしてしまうのです。これが乳糖不耐症の発症メカニズムです。

つまり、乳糖不耐症になるかどうかは、小腸におけるラクターゼの働きにかかっているのです。

健康な赤ちゃんはラクターゼ活性が高い

健康な赤ちゃんであれば、ラクターゼが十分に働いています。このことを「ラクターゼ活性が高い」と表現します。赤ちゃんの場合は、大人よりもラクターゼ活性が高いため、大量のミルクや母乳を飲んだとしても、お腹をくだすことはないのです。

しかし日本人の場合、離乳期を過ぎると小腸のラクターゼ活性は低くなってきます。年齢と反比例するように、ラクターゼの働きが弱くなるのです。そのため、高齢になればなるほど、牛乳を飲むとお腹をくだしやすくなります。

ただ、赤ちゃんであっても、何らかの理由でラクターゼの働きが弱くなることがあります。そうなると、乳糖不耐症となって下痢などの症状があらわれてしまいます。

赤ちゃんの乳糖不耐症は注意が必要なので、詳細について以下の項目で述べていきます。

生まれつきラクターゼ活性が低い「先天性乳糖不耐症」

赤ちゃんの乳糖不耐症には、生まれつきラクターゼ活性が低い「先天性乳糖不耐症」と、生後にラクターゼ活性が低くなる「二次性乳糖不耐症」があります。

まずは「先天性乳糖不耐症」について述べていきます。

生まれつきラクターゼの働きが弱い場合、ラクターゼを作る遺伝子(LCT遺伝子といいます)が正常に働いていない可能性があります。

ただ、このような先天性乳糖不耐症で生まれてくる赤ちゃんはかなり少ないです。国内の発症頻度は正確に調査されていませんが、最も高頻度とされるフィンランドの発症頻度は6万人に1人です。

日本で2016年に生まれた赤ちゃんが約98万人です。仮にフィンランドと同じの発症頻度だとすると、2016年には約16人の赤ちゃんが先天性乳糖不耐症で生まれたことになります。

生後にラクターゼ活性が低くなる「二次性乳糖不耐症」

病気などが原因で小腸のラクターゼ活性が低くなる場合は、二次性乳糖不耐症になります。赤ちゃんの乳糖不耐症は、ほとんど二次性乳糖不耐症です。

二次性乳糖不耐症の原因には以下のようなものがあります。
  • ウィルスによる感染性腸炎(特にロタウィルス
  • セリアック病(小麦などが原因となって小腸に傷害が生じる病気)などの腸の疾患
  • 栄養失調や手術に伴う腸の機能低下
特にロタウィルス感染が原因となるケースが多いです。ウィルス感染によって小腸粘膜が傷害されると、ラクターゼ分泌量が減るため、乳糖不耐症になってしまうのです。

そのため、赤ちゃんがウィルス感染症にかかったときは、便の状態をよく確認するようにしましょう。

赤ちゃんの乳糖不耐症で注意することと対処法

ラクターゼ活性が低くなっているときに母乳やミルクを飲ませると、ほぼ確実に下痢になります。そして、下痢を繰り返すと脱水症状になる可能性があるため、早めに対処してあげましょう。

対処方法としては「乳糖を含まないミルクラクターゼ製剤」の利用があります。いずれも小児科医に相談のうえで飲ませるようにしてください。

乳糖を含まないミルクはたくさん市販されており、通常1~2日で症状は改善します。ただ、元のミルクに急に戻すとまた下痢になることがあります。そのため、無乳糖ミルクに少しずつ通常のミルクを混ぜるなどして、徐々に元のミルクに戻していきましょう。

また母乳をあげる場合であれば、授乳前に「ラクターゼ製剤」という種類の薬を飲ませるのが良いでしょう。ラクターゼ製剤を飲むことで、小腸のラクターゼの働きを補完できるのです。

今回述べてきたように、乳児の乳糖不耐症は大人の場合と違って少し深刻です。対処が遅れると脱水症状になってしまう危険性があるため、赤ちゃんの下痢が止まらないという場合は、早めに対処してあげてください。

まとめ

    • 小腸から分泌されるラクターゼの働きが弱くなると、乳糖不耐症になってしまう。

    • 赤ちゃんの場合、ロタウィルスの感染などが原因でラクターゼの働きが弱くなり、乳糖不耐症になることが多い。

  • 赤ちゃんの場合、乳糖を含まないミルクやラクターゼ製剤を利用して対処することができる。



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