急性胃腸炎が過敏性腸症候群の原因になることもある!

この記事のポイント

過敏性腸症候群とは、通常の検査では異常が見つからないにも関わらず、腹痛や下痢、便秘などの症状が慢性的に続く症状のことです。ストレスが原因であることが多いため、神経質な人や真面目な人に症状が出やすいという特徴があります。

ただ、ストレス以外の原因もあります。それが今回紹介する「感染性腸炎後過敏性腸症候群」です。

今回は、感染性腸炎後過敏性腸症候群の特徴や予防のポイントを解説していきます。過敏性腸症候群にはさまざまな原因があることを理解しておきましょう。

※ 過敏性腸症候群は「IBS」、感染性腸炎後過敏性腸症候群は「PI-IBS」と略されることが多いので、この記事でもそのように略します。

※ IBSは「過敏性腸症候群」を意味する”irritable bowel syndrome”の略、PIは「感染後」を意味する”post-infectious”の略です。


【筆者】山口 幸三

  • 2003年:北海道大学農学部 卒業
  • 2005年:北海道大学大学院農学研究科 修士課程 修了
  • 2005年~2017年:協和発酵工業株式会社(現 協和キリン株式会社)
    がんや腸内細菌に関するプロジェクトのサブリーダーとして研究を牽引。
  • 2019年:株式会社フローラボ設立
腸内環境に関する専門知識を背景に腸活関連の事業を推進。現在は、腸内フローラ解析にもとづいたパーソナル腸活(その人に合った腸活)のサポート、腸活ダイエットのサポート、腸活勉強会の主催などを行っている。


1.感染性腸炎後過敏性腸症候群(PI-IBS)になる人は1~3割

感染性腸炎後過敏性腸症候群(PI-IBS)は、細菌やウィルスに感染して急性腸炎を発症した後にかかる過敏性腸症候群のことです。この場合、発症の原因となるのはストレスではなく急性腸炎です。

例えば、食中毒の原因菌としてサルモネラ菌やカンピロバクターなどがあります。サルモネラ菌は加熱不足の鶏卵、カンピロバクターは加熱不足のレバーや鶏肉などが原因で感染することがあります。

サルモネラ菌とカンピロバクター
(参照:ヤクルト中央研究所 菌の図鑑

また、冬になるとニュースなどで「ノロウィルス」という言葉を聞くことがあります。ノロウィルスは、加熱不足の食品や感染者の吐瀉物(としゃぶつ:嘔吐や下痢のこと)などから感染するウィルスです。

ノロウィルス
(参照:愛知県衛生研究所

このような細菌やウィルスに感染すると、急性胃腸炎(食中毒)を引き起こすことがあります。そして、急性胃腸炎から回復した後に、PI-IBSを発症するケースがあるのです。

1-1.サルモネラ菌食中毒の影響

サルモネラ菌による急性胃腸炎になった人677名と、急性胃腸炎になっていない健康な人1201名を比較した研究があります。(参考文献:Gastroenterology, 2005, Vol.129, p.98

この2組のIBS発症率を比較した結果、胃腸炎後1年以内にIBSを発症した割合は前者が10%、後者が0.7%でした。つまり、サルモネラ菌による急性胃腸炎になった人のほうがIBSになる確率が高かったのです。

サルモネラ菌感染によるPI-IBS
(参考文献「Gastroenterology」の図を一部編集)

1-2.大規模な飲料水汚染の影響

上の例とよく似た調査はカナダでも行われています。(参考文献:Gastroenterology, 2010, Vol.138, p.1502

2000年5月、カナダのオンタリオ州が豪雨に見舞われました。そして、その影響で飲料水が病原性大腸菌O-157やカンピロバクターに汚染されてしまったのです。

被害にあった住民は2,300人以上でした。そして、そのうち36.2%以上もの住民が2~3年以内にIBSを発症したことがその後の調査で判明したのです。

このように、急性胃腸炎になった後はIBSを発症しやすくなることが、さまざまな調査から明らかにされています。「IBSの原因な日常的なストレス」と考えられることが多いですが、実際にはストレス以外の原因もあることがわかると思います。

2.PI-IBSになりやすい人とPI-IBSを予防するためのポイント

これまでの調査から、PI-IBSを発症しやすい人の特徴がわかっています。その特徴は下記のとおりです。
<PI-IBSになりやすい人の特徴>
  • 女性
  • 60歳未満
  • 喫煙している
  • 鬱になったことがある
  • 心配性の人
  • 胃腸炎になったときに抗生物質を服用している人

一方で、PI-IBSを予防するためのポイントもある程度わかっています。それは「胃腸炎をしっかり治療し、回復後数日間は胃腸に負担のかからない軽食をとり続けること」です。というのも、急性胃腸炎から回復した後、すぐに普段の生活に戻ろうとして、普通の食事をとる人にPI-IBS患者が多いからです。

回復後の食事については、医師から指導されることがあるので、指示にしたがうことがPI-IBSを防ぐ上でとても重要なのです。

3.まとめ

  • 細菌やウィルスなどに感染して急性腸炎を発症した後に過敏性腸症候群になることがある。これを「感染性腸炎後過敏性腸症候群(PI-IBS)」という。
  • 胃腸炎をしっかり治療し、回復後数日間は胃腸に負担のかからない軽食を取ることがPI-IBSを予防する上で重要である。

今回述べてきたように、ストレスだけでなく急性胃腸炎もIBSの原因になります。急性胃腸炎にかかると1~3割の人がIBSを発症するというデータもあるため、食事の摂り方を注意したり医師の指示にしたがったりすることがPI-IBSを予防するためには重要です。



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