下痢の定義と4つの分類

下痢で悩んでいる人はたくさんいます。私はどちらかというと便秘体質ですが、私のまわりにも慢性的な下痢に悩んでいる人が何人かいます。

「お腹がゆるい」とか「水のような便が出る」と表現される下痢ですが、実は下痢には学術的な定義があります。また、その発症メカニズムについても解明されてきています。

そこで今回は「下痢の定義」とその発症メカニズムに基づいた「下痢の分類」ついて解説していきます。少し学術的な内容になりますが、下痢という症状を理解するために正確な知識を身に付けておきましょう。

下痢の定義

下痢の定義は以下の通りです。

1. 糞便中に含まれる水分量が1日200 mL以上である

または

2. 水のような便が1日3回以上排出される

日常生活において糞便中の水分量を測定することはあり得ないので、主に2に該当する場合に「下痢」と判断することになります。

私たちは飲食によって1日に約2 Lの水分を摂取しています。また、唾液、胃液、腸液など、さまざまな消化液がなんと約7 Lも腸管内に分泌されています。したがって、腸管内には1日あたり約9 Lもの水分が流入していることになります。

このうち、約8割の水分が小腸から吸収されています。子供の頃に「小腸では栄養が吸収され、大腸では水分が吸収される」と学ぶことがありますが(私もそのように習いました)、実際は小腸からかなり多くの水分が吸収されています。

そして、大腸では小腸で吸収しきれなかった水分が吸収されます。小腸で吸収される水分は、大腸から吸収される水分よりも多いため、小腸に不具合が生じて発症する下痢の場合は、水分量が非常に多くなります。

ここまで読むと、下痢の主な発症メカニズムは「腸管における水分の吸収不足」であることが理解できると思います。しかし、もう一つ重要な発症メカニズムがあります。それは「腸管への水分の過剰分泌」です。またこれらが併発している場合もあります。

腸管における「水分の吸収不足」と腸管内への「水分の過剰分泌」には主に4つの原因があります。

そして、その4つの原因によって「浸透圧性下痢」「分泌性下痢」「滲出性(しんしゅつせい)下痢」「腸管運動異常性下痢」の4つに分類されるのです。

以下では、これらの4つの下痢について解説していきます。

浸透圧性下痢

「腸から吸収されない物質」が腸管内に滞留すると、腸管内の浸透圧(水を引き寄せる力)が高くなります。その結果、腸からの水分吸収が抑制されます。また、それと同時に腸管への水分分泌が促進されます。このように、腸管内の浸透圧上昇が原因で生じる下痢を浸透圧性下痢といいます。

それでは、浸透圧を高める原因となる「腸管から吸収されない物質」とはどのような物質でしょうか?

代表的なものはオリゴ糖です。市販されているオリゴ糖の多くは消化・吸収されずに大腸まで到達します。また、ガムなどに含まれるキシリトールも同じです。

実際、私が普段からよく口にしているキシリトールガムには「一度に多量に食べると、体質によりお腹がゆるくなる場合があります。」という注意書きがされています。また、我が家にある市販のオリゴ糖にも同様の注意書きがあります。

このように、オリゴ糖やキシリトールは浸透圧性下痢を引き起こす原因になり得るのです。これらの食品を頻繁に口にしていると下痢になる可能性があるので注意しましょう。

また、牛乳を飲むとお腹を下してしまう「乳糖不耐症」も浸透圧性下痢に該当します。牛乳に含まれる「乳糖」はオリゴ糖なので、腸管内の浸透圧を上げてしまうのです。

また、ある種の便秘薬(マグミットなど)には有効成分として酸化マグネシウムという成分が含まれています。この酸化マグネシウムも腸管内の浸透圧を上げる物質です。つまり、酸化マグネシウムを含む便秘薬は、人為的に浸透圧性下痢を引き起こすことで便秘を解消しているのです。

分泌性下痢

細菌が産生する毒素やホルモンなどの影響で腸管内に過剰に水分が分泌されることがあります。このような原因で生じる下痢のことを分泌性下痢といいます。

例えば、「腸管毒素原性大腸菌」という種類の大腸菌がいます。これは海外旅行者がかかりやすい食中毒の原因菌です。そして、この大腸菌はエンテロトキシンという毒素を産生します。

このエンテロトキシンは、腸管内でさまざまな作用を引き起こし、最終的に腸壁から腸管内にクロライドイオン(Cl-)というイオンを分泌させます。

腸管内のクロライドイオンの量が増えると腸管内の浸透圧が高くなります。そのため、最終的には浸透圧性下痢と同じ原理で下痢になってしまうのです。

興味深いことに、このエンテロトキシンという毒素を元に作られた便秘薬が存在します。リナクロチド(商品名:リンゼス)という便秘薬です。つまり、リナクロチドは人為的に分泌性下痢を引き起こすことで便秘を解消する薬剤なのです。

世の中には「毒から作られた薬」というのが存在しますが、リナクロチドはまさにそのような便秘薬なのです。

また細菌が産生する毒素だけでなく、人が体内で作り出すセロトニンなどのホルモンにも腸管内のクロライドイオンを増やす作用があります。

滲出性(しんしゅつせい)下痢

腸粘膜が炎症を起こしたり腸粘膜を傷つけるような病原体に感染したりすると、腸液の分泌が増え、水分の吸収が低下します。このようなメカニズムで生じる下痢を滲出性下痢といいます。

滲出性下痢の場合、腸管内の細胞が剥がれ落ち、腸管内へ血液が漏出する場合があります。そのため、血便も生じやすくなります

上述の通り、滲出性下痢の主な原因は腸粘膜の炎症です。そして、腸粘膜に炎症を引き起こす疾患として潰瘍性大腸炎クローン病といった難病があります。

潰瘍性大腸炎は安倍晋三氏が罹患したことがある病気なので聞いたことがある人も多いと思います。また、潰瘍性大腸炎に類似の炎症性疾患としてクローン病があります。

これらの疾患は下痢だけでなく、腹痛、発熱、血便なども引き起こすため、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。下痢症状だけでなく、腹痛、発熱、血便などの症状が続く場合は、潰瘍性大腸炎やクローン病が背景にある場合もあるため、症状をよく確認したうえで医療機関を受診しましょう。

腸管運動異常性下痢

腸管のぜん動運動が活発化することによって生じる下痢のことを腸管運動異常性下痢といいます。

ぜん動運動とは、食べた物を肛門方向へと移動させる収縮運動のことです。ぜん動運動が活発化していると、体内に取り入れた水分が十分に吸収される前に排泄物として肛門に到達してしまうため、下痢になってしまうのです。

ぜん動運動が活発化する原因はいくつかあります。その中で、最も大きな原因が「ストレス」です。

実は脳と腸は密接に関わっています。自律神経やホルモンを介して、脳と腸は常にやり取りをしているのです。この脳と腸の関係を「脳腸相関」といいます。

自律神経には副交感神経と交感神経の二つの神経があります。そのうち、副交感神経はぜん動運動を活発化する働きがあります。逆に、交感神経はぜん動運動を抑制する働きがあります。自律神経には腸の動き制御する重要な役割があるのです。

このように、腸は脳からの指令を受けて腸管運動を制御しています。実際、腸には他の臓器と比べて多くの神経細胞が集まっています。そのため、腸は「第二の脳」と呼ばれることがあるのです。

そして、過度なストレスがかかると自律神経は正常に働かなくなることがあります。そのため、腸のぜん動運動がうまく制御されず、下痢や便秘が引き起こされるのです。

ストレスによる下痢は数多くのサラリーマンを悩ませている「過敏性腸症候群」と深い関係があります。

この過敏性腸症候群には以下のような特徴があります。
  • 検査では身体的異常が見つからない
  • 腹痛を伴った下痢、便秘などの症状が続く
※ 過敏性腸症候群は英語で「irritable bowel syndrome」と表現されるため、頭文字をとってIBSと呼ばれることが多いです

過敏性腸症候群の主な原因はストレスであることから、現代病とまで呼ばれています。実際、消化器内科を訪れる患者のうち、最も多くの人が患っているのがこの過敏性腸症候群です。私の友人も過敏性腸症候群と診断されています。

またストレスの他に、アルコールやコーヒーの摂取が原因でぜん動運動が活発化する場合があります。

上述の友人は、ビールを飲むと確実に下すといっていました。ただ私自身はコーヒーを1日に3杯ぐらい飲みますが、下痢になったことはありません。このあたりは体質が関係していると思われます。

ここまで述べてきたように、下痢には厳密な定義があります。また、発症メカニズムに基づいて「浸透圧性下痢」「分泌性下痢」「滲出性下痢」「腸管運動異常性下痢」の4つに分類されます。下痢という症状を正確に理解するためにも、今回記載した内容をしっかりと把握しておきましょう。



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