慢性的な下痢になる原因①:腸に異常がある場合

下痢には急性的なものと慢性的なものがあります。

急性的な下痢は、主に「暴飲暴食」「細菌・ウィルスの感染」「自律神経のバランスの乱れ」などが原因です。この場合は数日で自然と回復することが多いので、下痢が続くことはありません。

一方、慢性的な下痢の場合は1か月以上も下痢が続きます。そして、この背景にはさまざまな病気が潜んでいることがあります。

慢性的な下痢の原因は「腸に異常がある」あるいは「腸以外のところに異常がある」の2つに分けられます。最近は特に「腸以外に異常がある」ことが原因で下痢に悩む人が増えています。そのなかで最も多い原因はストレスです。

一方で、「腸に異常がある」ために慢性的な下痢になることもあります。この場合は、重い疾患が原因になることもあります。そこで今回は「腸に異常がある場合」に絞って、慢性的な下痢の原因を解説していきます。医療機関を受診したほうがよいケースが多いので、内容をしっかりと理解してください。

原因1:炎症性腸疾患

炎症性腸疾患とは、その名の通り消化管内に炎症が生じる病気です。一般的に「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」のことをいいます。潰瘍性大腸炎は安倍晋三氏がかかった病気として知っている人も多いかもしれません。

いずれも厚生労働省が定める特定疾患に指定されている難病です。また潰瘍性大腸炎、クローン病ともに患者数が年々増加しているという特徴があります。

潰瘍性大腸炎とクローン病は、どちらも消化管に炎症を生じる病気ですが、その病態は大きく異なります。それぞれの違いをまとめると以下のようになります。

  クローン病
潰瘍性大腸炎


病変の発生部位
    • 口から肛門まで全消化管に広がることがある

  • 小腸の後半部分に発生しやすい
    • 直腸付近から小腸方向に広がる

  • 大腸全体に広がることはあるが、小腸には発生しない




病変の特徴
    • 病変と病変の間に正常な部分がある(スキップ病変といいます)

    • 消化管に穴をあけることがある

  • 消化管の空洞を埋めてしまうことがある
    • 病変は連続的に広がり、正常な部分はない(びまん性といいます)

    • 粘膜の表面に病変を生じる

  • クローン病のように穴をあけたり空洞を埋めたりしない

症状

腹痛、下痢、血便、発熱、排便回数の増加など
その他の特徴
症状があらわれる「活動期」と症状が治まる「寛解期」を繰り返す
※病変:消化管内に生じる異常(炎症や粘膜の剥離)のこと

症状の欄に記載した通り、これらの炎症性腸疾患にかかると下痢のほかにもさまざまな症状があらわれます。また、症状があらわれる「活動期」と症状が治まる「寛解期」を繰り返すという特徴もあります。

いずれも重い疾患なので、医療機関でしっかりと診てもらう必要があります。

原因2:菌交代症

私たちのお腹の中には多種多様な腸内細菌がいます。ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌だけでなく、大腸菌やウェルシュ菌などの悪玉菌もいます。

そして、悪玉菌の中には病気の原因となる細菌がいます。その中でも特に、クロストリジウム・ディフィシルやクレブシエラ・オキシトカという名前の細菌は「抗生物質が効きにくいタイプの悪玉菌」なのです。

抗生物質は体内に入った病原菌を殺すための薬です。ただ病原菌だけでなく、お腹の中にいる腸内細菌も殺してしまいます。そのため、抗生物質を服用すると腸内細菌バランスが崩れてしまうのです。

ふつうは、抗生物質の服用をやめると腸内細菌バランスは徐々に元に戻っていきます。ただ、体調や他に飲んでいる薬の影響などにより、腸内細菌バランスが元に戻らないことがあります。そして「抗生物質が効きにくいタイプの悪玉菌」が活発に活動し始めることもあるのです。

このように、「抗生物質が効きにくいタイプの悪玉菌」が増えることで生じる病気を菌交代症といいます。抗生物質を飲んだ後にずっと下痢が続くときは菌交代症の可能性を疑ってください。

ただ、ここで一つ重要な注意点があります。それは「下痢になるからといって自分の判断で抗生物質の服用をやめない」ということです。抗生物質を中途半端に飲んでしまうと、抗生物質が効かない「耐性菌」が作られてしまう可能性があります。

本来殺菌するべき病原菌も耐性菌に変わってしまう可能性があるため、処方された抗生物質は必ず飲み切るようにしましょう。もし下痢などの副作用が重い場合は、必ず医師に相談してください。

原因3:大腸がん、悪性リンパ腫

大腸がんでは便秘になることもあれば下痢になることもあります。下痢になるメカニズムは以下のように考えられています。

大腸がんになると、大腸内の空洞が徐々に塞がってきます。それに伴って便も徐々に細くなっていき、一回あたりの排便量が減ってしまいます。一回当たりの排便量が減るため、排便回数が増えます。そのため、一日に何度も便意をもよおすようになるのです。

また消化管に悪性リンパ腫が生じることもあります。下痢の頻度は必ずしも高くないですが、腹痛や発熱、血便、体重減少などの症状があらわれます。

ずれの場合も「排便の回数は多いが、一回あたりの排便量が少ない」「便に血が混じっている」「下痢が悪化している」「体重が減っている」などの症状があらわれます。いうまでもありませんが、必ず医療機関を受診してください。

原因4:短腸症候群

炎症性腸疾患などの病気を治療するため、手術によって腸を切除する場合があります。腸を切除した結果、下痢などのさまざまな症状があらわれるようになります。これを短腸症候群といいます。

短腸症候群には、下痢の他に「消化吸収が悪い」「栄養を十分に吸収できない」などさまざまな症状があります。

また盲腸の手術をした後も下痢になることがあります。重い盲腸の場合は、小腸の末端を切除することがあるため、短腸症候群と同じような症状があらわれるのです。この場合は特に「胆汁を小腸で吸収しきれない」ことが下痢の原因となります。

胆汁とは、脂肪の消化・吸収を助ける消化液のことです。ふつう、ほとんどの胆汁は小腸から吸収されるため、大腸に到達することはありません。しかし、盲腸の摘出によって小腸の末端を切ってしてしまうと、胆汁の吸収も不十分になってしまいます。

小腸で吸収しきれなかった胆汁が大量に大腸に到達すると下痢を引き起こしてしまうのです。

以上のように、今回は慢性的な下痢の原因として「腸の異常」について述べてきました。重い疾患が原因のこともあるため、1か月以上もの長い期間にわたって下痢が続く場合は医師に相談することをおすすめします。

ただ、冒頭に書いたとおり、ストレスなどの「腸以外の異常」が原因で慢性的な下痢になることも多いです。下痢が続くからといって心配しすぎることなく落ち着いて対応してください。



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