病気が少ない小腸と病気が多い大腸:免疫と腸内細菌の影響

同じ「腸」でも、小腸と大腸にはさまざまな違いがあります。その中でも特徴的なのが、「小腸は病気になりにくく、大腸は病気になりやすい」ということです。

これには「免疫」と「腸内細菌」が密接に関わっています。そこで今回は、免疫と腸内細菌が小腸と大腸の病気にどのように関わっているか解説していきます。免疫と腸内細菌は体全体の機能にも関わるほど重要ですので、内容を把握するようにしましょう。

小腸に病気が少ない理由

「小腸癌」や「小腸炎」という病名を聞いたことがある人は少ないと思います。これらの病気はないわけではないのですが、実際にこれらの病気にかかる人は少ないです。

小腸が病気になりにくい最大の理由は、「小腸には多くの免疫細胞が集まっているから」です。また、「小腸の表面にある細胞は絶えず新しい細胞に置き換わっているから」ということも、小腸の病気が少ない理由として挙げられることがあります。

以下にそれぞれについて解説していきます。

小腸は人体最大の免疫器官である
免疫とは、「体内に入ってきた異物(細菌やウィルスなど)を排除するために体に備わっている防御機構のこと」です。細菌やウィルスだけではなく、がん細胞に対しても攻撃を仕掛けます。

小腸は栄養素を体内に取り込む臓器です。そのときに病原菌やウィルスを取り込まないように、異物に対する防御機構がしっかり整備されているのです。

免疫を担当する細胞には、T細胞、B細胞、樹状細胞、マクロファージなど数多くの細胞があります。ここでは詳細は割愛しますが、これらの免疫細胞が連携しあうことによって、非常に複雑な免疫制御機構が成り立っているのです。

小腸には、実に体全体の6割以上もの免疫細胞が集まっています。そのため、小腸は異物や癌細胞によって傷害されることがほとんどありません。

小腸の細胞は体の中で最もフレッシュである
小腸の表面(食べた物と接する部分)にある細胞は、常に新しい細胞と入れ替わっています。そのサイクルは1.5~4日と言われています。これは他のどの臓器の細胞よりも早いです。

このサイクルが早いため、小腸は病気になりにくいとも考えられているのです。たとえ小腸の細胞が病原菌などによって傷害されたとしても、すぐに新しい細胞が生まれてくるからです。なお、置き換えられた古い細胞は腸の表面から剥がれ、便として排出されます。

このように小腸は、「免疫」と「腸表面の細胞の新陳代謝」のおかげで病気になりにくいのです。

大腸に病気が多い理由

大腸は他の臓器と比較して病気の発生頻度が高いです。例えば、「大腸癌」は日本で最も患者数の多いがんです。また某首相が患った「潰瘍性大腸炎」という難病は、年々患者数が増加しています。

このように大腸で病気が発生しやすい理由として、「腸内細菌」が挙げられます。腸内細菌の中には私たちの健康を害する悪玉菌がいるからです。

例えばクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)という悪玉菌は、非常に重篤な腸炎を引き起こします。またフソバクテリウム(Fusobacterium)属という種類に分類される細菌は、潰瘍性大腸炎や大腸癌との関連が指摘されています。またある種の大腸菌は、「コリバクチン」という物質を作って大腸癌を発生させます。

このほかにも、腐敗物質と呼ばれるアミンやインドールなども腸内細菌によって作られます。

これらの腐敗物質は血流を介して全身へと送られますが、発生源である大腸の濃度はとても高い値になります。例えば、インドールの大腸内濃度は250 μmol/L~1100 μmol/L以上という報告があります。

※ μmol/Lとは溶液中の物質の濃度を表す単位です。上記の濃度は、体内にある物質としては高い値です。

もちろん大腸で作られる腐敗物質の量は、食事内容や腸内細菌バランスによって変わります。ただ、発生源である大腸が体の中で最も高濃度であることに違いありません。

このような理由から、大腸は他の臓器と比べて病気の発生頻度が高くなっています。ただ、ここまでの記載内容を考慮すると、大腸の病気を予防するためには腸内細菌バランスを整えておくことが非常に重要であることがわかります。

特にビフィズス菌や乳酸菌、酪酸菌といった善玉菌は、酢酸や乳酸、酪酸などの物質を作ることにより、腸内環境を整えてくれます。また、これらの物質には腸壁のバリア機能を高める作用もあります。そのため、大腸だけでなく体全体の健康維持にも繋がるのです。

今回述べてきたように、小腸と大腸では病気の発生頻度が異なります。それには「免疫」と「腸内細菌」が大きく関わっています。これらは腸だけではなく、体全体の健康にも影響を与えることを認識したうえで、腸内環境を整えるようにしましょう。



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