「腸内フローラは腸の中のお花畑」という説明には無理がある

 

この記事のポイント

私たちのおなかの中には100兆個以上もの腸内細菌がいます。この腸内細菌全体のことを「腸内フローラ」あるいは「腸内細菌叢」(ちょうないさいきんそう)と言います。
今回は「腸内フローラ」という用語の意味について私の見解を述べさせていただきます。「世の中で行われている一般的な説明には無理がある」ということを理解してもらえると思います。


【筆者】山口 幸三

  • 2003年:北海道大学農学部 卒業
  • 2005年:北海道大学大学院農学研究科 修士課程 修了
  • 2005年~2017年:協和発酵工業株式会社(現 協和キリン株式会社)
    がんや腸内細菌に関するプロジェクトのサブリーダーとして研究を牽引。
  • 2019年:株式会社フローラボ設立
腸内環境に関する専門知識を背景に腸活関連の事業を推進。現在は、腸内フローラ解析にもとづいたパーソナル腸活(その人に合った腸活)のサポート、腸活ダイエットのサポート、腸活勉強会の主催などを行っている。


1.よくある「腸内フローラ」の説明

一般的に、「腸内フローラ」という用語は以下のように説明されることが多いです。

<よくある「腸内フローラ」の説明>
  • フローラ(flora)とは「お花畑」という意味である。
  • 腸の中で腸内細菌が集まっている様子はお花畑のように見える。したがって、腸内細菌全体のことを「腸内フローラ」という。

そして、たいていは下記のような腸内フローラのイメージ画像が掲載されています。

腸内フローラのイメージ図

このような説明であれば、一般の人にも「腸内フローラ」をイメージしてもらいやすいと思います。ただ、私は「イメージだけが独り歩きしていて、実態とかけ離れている」と感じています。それには以下に示す2つの理由があります。

2.理由1:腸内細菌はお花畑に見えない

そもそも腸内細菌はお花畑のように見えません。腸内細菌はカラフルな色ではないので、上のイメージ画像のように見えるわけがないのです。

実際、腸の中の様子は下記のようになっています。どう見てもお花畑ではないでしょう。

大腸内視鏡の画像
(参照:寺井クリニック

これは大腸内を内視鏡で見た画像です。では、もっと拡大して見るとどうなるでしょうか? たしかに、拡大するともう少しきれいな画像が得られます。

小腸・腸絨毛
(NHKスペシャル「腸内フローラ解明!驚異の細菌パワー」で放映された映像)

この画像は、NHKスペシャル「腸内フローラ解明!驚異の細菌パワー」で放映された腸内の拡大画像です。上の内視鏡写真に比べるとお花畑に近いと感じる人も多いと思います。

ただ、残念ながら、これは小腸の腸絨毛(ちょうじゅうもう:栄養を吸収する小さい突起)を映したものです。腸絨毛がきれいに映っているわけであって、腸内細菌そのものがきれいに映っているわけではありません。また、腸内細菌の住み家である大腸には腸絨毛がほとんどないので、ここまできれいな画像は得られないでしょう。

このように、腸内細菌がお花畑のように見えるわけではないのです。

3.理由2:floraに「お花畑」という意味はない

私は語学の専門家ではありませんが、いくつかの辞書を調べたところ、floraに「お花畑」という意味はありませんでした。お花畑は英語で「garden」や「field of flowers」というようです。

「flora」の本来の意味は「植物群」や「植物相」です。つまり、「特定の地域における植物全体のこと」なのです。「植物群」や「植物相」という言葉には、お花畑のようなきれいなイメージはないでしょう。

それでは、なぜ腸内細菌全体のことを「腸内フローラ」と呼ぶのでしょうか? その理由は、青字本文生物の分類学が発展するまで、細菌は植物に分類されていたからです。その名残で腸内細菌は腸内フローラと呼ばれているのです。決して、「腸内細菌がお花畑に見えるから」というわけではないのです。

このように、理由1と理由2から、「腸内フローラ=腸の中のお花畑」という説明には無理があることを理解して頂けると思います。

4.お花畑には見えないが腸内をきれいに染色することはできる

最後に、「現代の科学技術を使えば、腸の中をきれいに染色できる」ということを紹介します。

下図を見て下さい。これは大腸の断面図を染色したものです(蛍光免疫染色といいます)。

腸の蛍光免疫染色
科学技術振興機構(大阪大学・竹田先生の研究成果)の画像を一部編集)
  • 緑色に光っている部分:腸粘膜にあるタンパク質
  • 赤色に光っている部分:腸内細菌
  • 青色に光っている部分:大腸の細胞
  • 黄色に光っている部分:腸粘膜と腸内細菌が重複している部分

腸内細菌だけでなく、粘膜のタンパク質や大腸の細胞などを染め分けると、このように鮮やかな画像を得ることができます。現代の科学技術を活用すれば、このようなきれいは画像を得ることは不可能ではないのです。

ただ、繰り返しになりますが、腸内細菌がお花畑のように見えているわけではありません。あくまで、大腸の細胞や粘膜のタンパク質なども人為的に染色した結果、このようなきれいな画像が得られるのです。

<余談>
この染色技術を駆使した画像のコンテストを行っているメーカーもあります。私のサラリーマン時代の同僚は、このコンテストで1位に選ばれてアメリカ本社に招待されていました(腸内細菌の染色画像ではなく細胞の核やタンパク質などの染色画像です)。羨ましいかぎりですね(笑)

5.まとめ

  • 腸内細菌はカラフルな色をしているわけではない。したがって、腸内細菌の集まりが「お花畑」のように見えるわけがない。
  • 「flora」に「お花畑」という意味はない。「flora」の意味は「植物群」や「植物相」である。
  • 生物の分類学が発展するまで、細菌は植物に分類されていた。そのため、細菌全体のことを「フローラ」ということがある。



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