乳酸菌によるアトピー性皮膚炎「治療」効果:効かないこともある

腸は「免疫」と密接に関係している臓器です。

免疫とは、体内に入ってきた「異物」を排除するための防御機構のことです。小腸には食事を通して、多くの異物(細菌やウィルスなど)が入ってきます。これらの異物が体内へ影響を与えるのを防ぐため、小腸では免疫機能が発達しているのです。

そして腸は重要な免疫器官であるため、腸内環境は免疫やアレルギー疾患にも大きく関係します。

※ アレルギー:花粉、ダニ、ほこり、食べ物などを「異物」とみなして、過剰な免疫反応が起こること。花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息などがアレルギー疾患に該当します。

そこで今回は、善玉菌(特に乳酸菌)によるアトピー性皮膚炎の治療効果について述べていきます。

なおインターネット上には「乳酸菌によってアトピーの症状が改善!」といった情報が溢れています。ただ、いくつかのサイトを拝見しましたが、科学的根拠に乏しいものが多いように感じます。

正確な知見を学ぶことで、これらの広告を鵜呑みにすることはなくなります。そこで、以下では「乳酸菌によるアトピー性皮膚炎の治療を試みた研究報告」を複数紹介し、その効果を検証していきます。

乳酸菌の摂取によりアトピー性皮膚炎の症状が改善する

乳酸菌によってアトピーの症状が改善したことを示した論文報告をいくつか紹介します。

2003年:Rosenfeldt先生(デンマーク)の報告
1~13歳のアトピー性皮膚炎患者58人を対象に試験が行われました。2種類の乳酸菌を飲ませた患者は、乳酸菌を摂取しなかった患者と比較して、皮疹やかゆみが減少しました。

2005年:Weston先生(オーストラリア)の報告
中等度から重症のアトピー性皮膚炎児56人(生後6~18ヶ月)を対象に試験が行われました。乳酸菌(ラクトバチルス・ファーメンタム)を8週間飲ませた患者は、乳酸菌を摂取しなかった患者よりも症状が改善しました。

2005年:Viljanen先生(フィンランド)の報告
牛乳アレルギーの併発が疑われるアトピー性皮膚炎乳児230人(生後1~12ヶ月)を対象に試験が行われました。LGG乳酸菌(Lactobacillus rhamnosus GG)を4週間飲んだ患者は、乳酸菌を摂取しなかった患者よりも症状が改善しました。

※ LGG乳酸菌はアトピーの発症「予防」効果が示されている乳酸菌です

このように複数の論文で「乳酸菌にはアトピー性皮膚炎治療効果がある」ということが報告されています。

一方、逆の結果を示した論文も複数あります。

乳酸菌を摂取してもアトピー性皮膚炎の症状は改善しない

2006年:Brouwer先生(オランダ)の報告
34人のアトピー性皮膚炎乳児(生後5ヶ月以下)を対象に試験が行われました。LGG乳酸菌を3ヶ月間飲ませましたが、症状は改善しませんでした。

2006年:Folster-Holst先生(ドイツ)の報告
54人のアトピー性皮膚炎児(生後1~55ヶ月)を対象に試験が行われました。LGG乳酸菌を8週間飲ませましたが、症状は改善しませんでした。

2007年:Gruber先制(ドイツ)の報告
軽症~中等度の湿疹のある乳児102人(生後3~12ヶ月)を対象に試験が行われました。LGG乳酸菌を3ヶ月間飲むことで、症状の改善傾向がありました。しかし、統計学的に有意差はありませんでした。つまり、乳酸菌の効果ではなくたまたま改善傾向があっただけです。

このように「乳酸菌にはアトピー性皮膚炎治療効果はない」という論文も複数あります。

ここまで紹介した報告以外にも、複数の論文報告があります。ただいずれにしても現状、乳酸菌のアトピー性皮膚炎に対する治療効果については統一した見解が得られていません

そのため、「乳酸菌を飲むだけでアトピーが治る!」と大きく謳っている広告には注意した方がよいでしょう。もちろん効果がある場合もありますが、過度に期待しすぎないようにしましょう。

※元研究者の立場から追記します
「乳酸菌による治療効果」を調べる試験を行った場合を想定します。もし治療効果が得られたなら、普通は(特に制限がない限り)論文や学会で報告します。

一方、治療効果が得られなかった場合、論文や学会で報告しないこともあります。効果があった場合と比べてインパクトが弱いためです。乳製品メーカーに所属している研究者であれば、なおさらその傾向が強くなると思います。

そのため、「効かない」という結果は世の中に出てこないことがあります。本文中にはいくつか「効かない」という論文を紹介しましたが、本当はもっとたくさんあると思います。



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