そのため、腸内環境の悪化がさまざまな疾患の原因になることがあります。
動脈硬化や心血管の障害、肝臓がん、自閉症、腎疾患、肥満症などは、腸内環境との関連が指摘されている疾患です。
そして今回紹介する「自閉症スペクトラム障害」についても、腸内細菌の関与が指摘されています。あまり聞き慣れない病名ですが、「自閉症」の単語から分かるとおり、精神疾患の一種です。
この疾患の原因や発症メカニズムは詳細には解明されていませんが、「腸内細菌が何らかの関与をしている」ということが、徐々に明らかにされてきました。
そこで今回は、腸内細菌と自閉症スペクトラム障害との関係について解説します。
特に乳幼児期の腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう:腸内細菌全体のバランスのこと)が重要と考えられているので、将来子供を産む可能性のある女性には参考にしていただきたい内容です。
自閉症スペクトラム障害(ASD)はさまざまな症状を伴う全身疾患である
まず「自閉症スペクトラム障害」という疾患について解説します。この病気は英語で “Autism Spectrum Disorder” と表すので、頭文字をとって「ASD」と略されます。
ASDは、精神上の障害だけでなく身体的な異常も伴う全身疾患です。主な症状である「社会性障害」と「行動障害」に加えて、身体的な特徴として「腸管異常」、「代謝異常」、「免疫調節異常」などが症状として表れます。
主な症状
- 社会性障害:コミュニケーション能力の低下
- 行動障害:常同行動(手をひらひらさせる、体をゆする、顔をしかめる、奇声をあげる etc)
身体的な特徴
- 腸管異常:ASD患者の約40%に腸炎などの疾患があります
- 代謝異常:ASD患者の約30%に何らかの代謝異常があります(体内の物質を適切に処理できない)
- 免疫調節異常:ASD患者の約20%にアトピーや食物アレルギーなどがあります
ここに挙げたように、非常に多くの症状があります。ただ、すべての症状が出るわけではなく、患者によっては身体的異常が見られない場合もあります。
このように、ASDは患者ごとに病態が異なる複雑な疾患です。
自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因は解明しきれていない
ASDは遺伝因子や環境因子が複雑に影響し合って発症すると考えられますが、原因は解明しきれていません。※ 遺伝因子:遺伝子の異常
※ 環境因子:日常生活で体が受けるさまざまな影響
ASDの遺伝因子として、神経の機能や発達に関わる遺伝子が数多く挙げられています。また環境因子として、妊婦の「インフルエンザ感染」や「細菌感染」、「喫煙」などがあります。また、「幼児期の抗生物質投与」も環境因子になります。
このように、ASDの発症にはさまざまな要因があります。症状が患者ごとに違うことから、発症に至るメカニズムも患者によって異なると考えられます。
そして新たな環境因子として大きな注目を浴びているのが腸内細菌です。それでは、なぜ腸内細菌がASDの原因と考えられているのかについて述べていきます。
腸内細菌は自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因になり得る
ASDの原因として腸内細菌が注目されている理由が二つあります。一つ目は、「腸管異常」です。上述のとおり、ASDの身体的な特徴として腸管異常がしばしば認められます。腸管内には100兆個を超える腸内細菌がいるため、これらが腸管異常を介してASDの発症に関与している可能性があります。
二つ目は、「幼児期に服用した抗生物質」です。抗生物質とは、さまざまな細菌を殺す薬のことです。この薬を服用すると、当然腸内細菌も殺菌されてしまうため、腸内細菌バランスが乱れます。そして、このような腸内環境の乱れがさまざまな疾患に関与することが疑われています。
ASDの発症にも、腸内環境の悪化が影響している可能性があります。実際、生後順調に発達していた子供が、中耳炎などの感染症に罹患して抗生物質を処方された場合に、ASDを発症する場合があるからです。
このような抗生物質に関連して発症するケースがASD全体の20-30%にも上ると言われています。
そこで、どのような腸内細菌が関与しているか調べるために、ASD患者と健康な人の腸内細菌叢の比較が行われました。
その結果、ASD患者では健康な人と比べてクロストリジウム科(Clostridiaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、デスルフォビブリオ科(Desulfovibrionaceae)という種類に分類される腸内細菌が増えていることが確認されています。さらに、これらの腸内細菌が作る物質とASD発症との関連も指摘されています。
以上のように、ASDには数多くの原因が考えられています。そして、その原因の一つとして腸内細菌が注目されています。これは言い換えれば、「腸内環境を整えることでASDを予防できる可能性がある」ということです。特に抗生物質を服用したときは、このことを認識した上で食事などを工夫してみるのがよいでしょう。