潰瘍性大腸炎の発症に関係している腸内細菌

潰瘍性大腸炎とは、直腸(大腸の最後の部分=肛門の手前)付近から小腸の方向に潰瘍やびらんが切れ目なく広がる炎症性腸疾患(腸の炎症が慢性的に続く病気)の一つです。

※ 潰瘍(かいよう):消化管の表面を覆っている粘膜が、炎症を起こして剥がれ落ちること。
※ びらん:粘膜が荒れること。潰瘍より軽症です。

この病気は完治する治療法が確立されておらず、厚生労働省から特定疾患(≒難病)に指定されています。

ただ、さまざまな研究から、潰瘍性大腸炎の発症や症状緩和に腸内細菌が関与していることが明らかとなっています。そこで今回は、潰瘍性大腸炎の発症に関与していると思われる腸内細菌について述べていきます。

腸内細菌は潰瘍発生の原因になり得る

ピロリ菌という細菌の名前を聞いたことがあるでしょうか? この細菌は、2005年のノーベル生理学・医学賞がきっかけで、世間に知られるようになった細菌です。

ノーベル賞受賞者であるウォレンとマーシャルという二人の研究者は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)という細菌を胃の中に発見しました。そして、この細菌が胃潰瘍や胃癌の原因になっていることを明らかにしました。

今では、人間ドック等で「ピロリ菌検査」という項目ができています。それほど、このピロリ菌が胃潰瘍や胃癌の原因菌であると認知されているのです。

ここでピロリ菌の例を出したのは、「細菌が潰瘍の原因になり得る」ということを理解して頂きたかったからです。ピロリ菌が活動するのは主に「胃」ですが、同じように「腸」で活動して、潰瘍の原因になるような細菌がいても何ら不思議ではありません。

潰瘍性大腸炎の原因は明らかにされていないため、腸内細菌だけが原因とは限りません。ただ、病気の発症に関係していると予想される腸内細菌はいくつか知られていますので、以下に紹介していきます。

フソバクテリウム・バリウムとバクテロイデス・ブルガタスの関与

フソバクテリウム・バリウム(Fusobacterium varium)とバクテロイデス・ブルガタス(Bacteroides vulgatus)という悪玉菌が、潰瘍性大腸炎の発症に関与していることが指摘されています。

健康な人と比較して、患者の大腸内ではこれらの細菌が多くなっていることが知られています。しかも、腸粘膜の中にまで侵入してきていることが確認されています(通常、粘膜にはバリア機能があり細菌の侵入を抑えています)。

それだけではありません。これらは細胞を傷害する物質を産生します。フソバクテリウム・バリウムは酪酸を、バクテロイデス・ブルガタスはコハク酸をそれぞれ大量に産生して、細胞を傷つけることが示されています。

ただ、ここは解釈が若干難しいところです。というのも、酪酸もコハク酸も一般的には腸内環境に良い影響を与える物質と考えられているからです。

そのため、これらを発見した先生方の間では、「産生すること自体が悪いのではなく、このときの酪酸やコハク酸の濃度が重要」と考えられています。

つまり、酪酸やコハク酸は適量であれば腸内環境に良い影響を与えますが、大量に作られた場合は、腸の細胞に悪影響を及ぼします。実際、実験的にもそのような結果が得られています。そして、傷害された細胞の蓄積が慢性的な炎症の原因となり、最終的に潰瘍が発生するのです。

ただ、酪酸やコハク酸における濃度の解釈は難しいため、さらなる解明が期待されています。

硫酸還元細菌の関与

腐敗物質である硫化水素を産生する悪玉菌として、硫酸還元細菌という細菌がいます。この細菌も潰瘍性大腸炎患者の腸管内で増えていることが明らかにされています。

硫化水素にはさまざまな働きがあります。そのうちの一つが、「腸管内の細胞に毒性を示し、粘膜細胞を傷害する」というものです。その結果、慢性的な炎症に発展し、最終的に潰瘍が形成されてしまいます。

このように、いくつかの腸内細菌が潰瘍性大腸炎の発症に関与していることが知られています。一方で、腸内細菌だけでなく、遺伝的な要因もあることが指摘されています。最後にそのことについて解説します。

潰瘍性大腸炎の遺伝的要因

上記の細菌は、健康な人のお腹の中にいる場合もあります。したがって、この細菌が腸に定着しているからといって、全ての人が潰瘍性大腸炎を罹患するというわけではありません。

健康な人の腸管粘膜は、防御機構が正常に働いているため、これらの細菌が粘膜内に侵入できません。一方で、潰瘍性大腸炎患者においては、何らかの要因で粘膜の防御機能が低下し、これらの細菌の侵入を許してしまいます。

この「何らかの要因」の一つに遺伝的な要因が挙げられます。

これらのことから、以下のようなメカニズムで潰瘍性大腸炎が発症するのではないかと考えられています。

1. 遺伝的な要因により、粘膜の防御機能が弱まる
2. 細胞傷害性を示す腸内細菌が粘膜に侵入する
3. 腸内細菌が腸管内の細胞を傷害する
4. 炎症や潰瘍が発生する

ここまで述べてきたように、腸内細菌が潰瘍性大腸炎の原因となっている可能性はかなり高いです。

一方、これ以外の原因として、「異常な免疫反応が慢性的に続くこと」が病気の発症や悪化に関与しているのではないか、と考える研究者もたくさんいます。

免疫反応とは、体内に侵入してきたウィルスや細菌などの異物を排除するための防御機能です。この免疫反応が異常に働き続けるために、腸の粘膜が傷害されている可能性があるのです。

このように、潰瘍性大腸炎の発症に関してはさまざまな原因が挙げられており、完全には解明されていません。しかし、発症に関与している腸内細菌はいくつか発見されています。また、免疫の関与も徐々に解明されています。遠くない将来、発症メカニズムが解明され、完治に繋がる治療法が確立されることを期待しています。

また、病気の治療よりもまずは予防が重要であることは言うまでもありません。そのためにも、普段の生活の中で腸内環境を整えておくことが重要です。そうすることで、潰瘍性大腸炎の罹患リスクを下げられる可能性があります。



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