特定疾患に指定される潰瘍性大腸炎の特徴

厚生労働省が定める特定疾患(≒難病)に指定される腸疾患として、潰瘍性大腸炎という病気があります。この病気は腸管内に炎症が広がるという特徴があるため、炎症性腸疾患(腸の炎症が慢性的に続く病気)の一つに分類されます。

※ 炎症性腸疾患には潰瘍性大腸炎の他にクローン病があります。

潰瘍性大腸炎の原因は解明されていないため、完治する治療法は確立されていません。しかし、腸内細菌が病気の発症や症状緩和に関係していることがわかってきています。

ここでは潰瘍性大腸炎の特徴と腸内細菌の関与について解説していきます。これらのことを学ぶことで、万一この病気に罹患したとしても、治療上の注意点や医師の治療方針を理解することができます。また、腸内環境を整えることが病気の予防に繋がることも把握できます。

歴代首相も患った潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎という病気は日本の歴代首相も患ったことのある病気であるため、知っている方もいるかもしれません。

日本では若者を中心に毎年患者数が増加しています。年間1万人近く罹患者が増えており、2015年には全患者数は16万人を超えました。患者数が増加している背景には、食の欧米化が関係していると考えられています。

主な症状として、腹痛や下痢、血便などが挙げられます。重症化すると発熱したり、一日の排便回数が6回を超えたりするため、日常生活に支障をきたします。

また、消化管内の病変として、大腸に潰瘍(かいよう:消化管の表面を覆っている粘膜が炎症を起こして剥がれ落ちること)が広がるという特徴があります。また潰瘍よりも軽症である「びらん(粘膜が荒れた状態)」が広がる場合もあります。これらの病変の広がり方には以下のような特徴があります。

・ 病変は直腸(大腸の最後=肛門の手前)付近から小腸の方向に広がります。最大で大腸全体に広がることがありますが、小腸に病変が生じることはほとんどありません。

・ 病変は切れ目なく連続的に広がります。このような連続的に広がる性質を「びまん性」と言います。

炎症の範囲が広かったり、炎症が長期間継続していたりする場合は、がん化のリスクが高まるため注意が必要です。

また潰瘍性大腸炎では、大腸に炎症が生じて症状が表れる「活動期」と、炎症が治まっている「寛解期」が繰り返されるという特徴があります。そのため、症状が治まったからといって安心することのできない病気です。

潰瘍性大腸炎患者における腸内細菌バランスの変化

さまざまな研究から、腸内細菌が潰瘍性大腸炎の発症や症状緩和に関与していることが示されています。

例えば、腸炎を自然発症する実験用マウスがいます。このマウスを無菌状態にすると、腸炎を発症しないことが判明しました。このことから、腸炎の発症には腸内細菌が関与していることがわかります。

また、潰瘍性大腸炎患者では、健康な人と比較して、ファーミキューテス門の腸内細菌が減少し、プロテオバクテリア門の細菌は増加しています。

※ 「門」というのは細菌を分類する単位のひとつです。腸内細菌は大きく4つの門、つまりバクテロイデス門、ファーミキューテス門、アクチノバクテリア門、プロテオバクテリア門に分類されます。

さらに、患者では保有している腸内細菌の種類が健康な人より少ないという特徴もあります。このことを「腸内細菌の多様性が低下している」と表現します。

これらのことから、潰瘍性大腸炎の発症には腸内細菌が何らかの影響を及ぼしていることがわかります。

また、このような腸内細菌全体の解析だけでなく、個別の腸内細菌に焦点を当て、より詳細な解析を行った研究も複数報告されているので、以下に述べていきます。

潰瘍性大腸炎における善玉菌と悪玉菌の影響

例えば、潰瘍性大腸炎患者のお腹の中では、善玉菌であるフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)という細菌が減少しています。この細菌は免疫反応を調節する酪酸(らくさん)という物質を産生します。

実際、患者の便では酪酸の量が減少しています。そのため、「大腸内における酪酸菌の減少 → 酪酸濃度の低下 → 免疫反応がうまく調節されない → 腸管内で慢性的な炎症が起こる」というふうに病気が発症している可能性が考えられます。

また、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィとは逆に、硫化水素を産生する硫酸還元細菌という種類の悪玉菌が増えている場合もあります。その他にも、バクテロイデス・ブルガタス(Bacteroides vulgatus)やフソバクテリウム・バリウム(Fusobacterium varium)といった細菌が増加するケースも報告されています。これらは大腸粘膜を傷害する悪玉菌です。

このように、潰瘍性大腸炎の発症には複数の腸内細菌が関与をしていることが分かっています。

なお、患者にビフィズス菌や酪酸菌などの善玉菌を飲ませることにより、症状が緩和することを示した研究成果も多数報告されています。

例えば、5種類の乳酸菌と3種類のビフィズス菌の混合物であるVSL#3という薬剤には、潰瘍性大腸炎を活動期から寛解期に移行させる効果があります。また、酪酸菌の一種であるクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)にも腸炎抑制効果があることが示されています。

今回述べてきたように、潰瘍性大腸炎は完治する治療法が確立されていない難病です。ただ、さまざまな研究から、病気の発症や症状の緩和に腸内細菌が関与していることが示されています。そのため、普段の生活習慣を見直し、腸内環境を整えておくことで病気の予防が可能となります。



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