一方、個々の治療法や治療薬に目をやると、欧米諸国に遅れをとっているケースがあります。
例えば、臓器の移植手術は日本よりも欧米のほうが進んでいます。また、「海外で使用されている薬であっても、国内では厚生労働省の承認が得られていないため使えない」ということが稀にあります。
そして「便秘治療」においても、日本は欧米より遅れています。そこで今回は、日本で便秘治療があまり発展しなかった背景について解説していきます。またそのような状況の中、どのように医療機関を利用すればよいか述べていきます。
日本の便秘治療は欧米より遅れている
欧米では、便秘治療のために医療機関を受診すると、しっかりとした問診のあとに運動療法や食事療法を重視した指導が行われます。そのような生活習慣の改善を行っても便秘が解消しない場合は、オリゴ糖(善玉菌のエサ。善玉菌の働きを活発にする)を使用したり、ポリエチレングリコールという薬が処方されたりします。
ポリエチレングリコールというのは、腸洗浄にも用いられる薬の成分です。消化管から体内に吸収されないため、副作用が少ない成分として知られています。そのため、欧米では便秘治療の第一選択薬(最初に処方される薬)となっています。
ところが日本おいては、ポリエチレングリコールは「大腸内視鏡検査の前処置薬(腸洗浄剤)」として承認されていますが、「便秘の治療薬」としては認められていません。そのため、医療機関を受診してもこの薬が処方されることはありません。
また便秘を専門に扱っていない消化器内科を受診すると、生活面での指導はなく、結腸刺激性下剤を処方されるだけで終わりというケースもあります。
結腸刺激性下剤とは、有効成分が結腸(大腸の大部分)を刺激して腸のぜん動運動を促す薬です。この薬には下記に示したような注意点があります。
<結腸刺激性下剤の注意点>
結腸刺激性下剤は、数ヶ月間服用し続けると徐々に効き目が弱くなります。これは、薬の影響で腸の働きが弱くなるために起こる現象です。
特にこのような症状が出やすいのは、センナ(センノシド)、ダイオウ、アロエなどの漢方系の薬です。これらの有効成分はアントラキノンという物質に類似しているため、「アントラキノン系」の下剤とも呼ばれます。
アントラキノン系下剤は、「旅行先などで生じる環境変化による便秘」や「生理期間中の便秘」など、一時的な便秘に使用する場合は問題ありません。
しかし、使い続けると腸の機能が弱くなってしまうため、継続的に使用するのは避けた方が良いです。
特にこのような症状が出やすいのは、センナ(センノシド)、ダイオウ、アロエなどの漢方系の薬です。これらの有効成分はアントラキノンという物質に類似しているため、「アントラキノン系」の下剤とも呼ばれます。
アントラキノン系下剤は、「旅行先などで生じる環境変化による便秘」や「生理期間中の便秘」など、一時的な便秘に使用する場合は問題ありません。
しかし、使い続けると腸の機能が弱くなってしまうため、継続的に使用するのは避けた方が良いです。
このような事情があるにも関わらず、日本では慢性便秘に対しても結腸刺激性下剤が使用されています。
一方欧米では、センナやダイオウを慢性便秘に処方することは認められていません。アロエにいたっては「Poisonous Plant(有毒植物)」に指定されているほどです。
このように「便秘治療」においては、日本は欧米よりも遅れています。ただ、最近になって便秘外来などが開設されるようになり、徐々に後れを取り戻しつつあります。
日本の便秘治療が欧米ほど発展しなかった理由
日本において、便秘治療が欧米ほど発展しなかった理由として、「日本の消化器内科医が扱う病気の数が多い」という要因が挙げられます。日本の消化器内科では、腸だけでなく食道や胃など数多くの臓器を扱います。
それぞれの臓器には、癌や炎症性の疾患など重篤な病気があるため、どうしてもそのような病気が優先されます。そのため、命の危険に直結しない便秘は後回しになってしまうのです。
このような背景があるため、便秘や便秘薬(下剤)について深く学ぶ機会も多くありません。例えば、日本の大学には便秘に関する研究室がほとんどありません。また消化器系の学会で「便秘」がテーマとして取り上げられることもほとんどありません。
一方、欧米では医師の分業が日本以上に進んでいるため、「便秘は後回し」ということが起こりにくいです。これが「日本の便秘治療が欧米ほど発展しなかった理由」です。
ただ、上述の通り、最近は便秘外来が開設されるようになるなど、状況は変わりつつあります。
市販薬を買う際にも注意が必要
便秘解消のためにわざわざ医療機関を受診しない人もいます。そしてそのような人の中には、市販薬で対処する人も多いです。ただ、市販薬を買う場合にもある程度自分で便秘薬(下剤)に関する知識を持っておく必要があります。少なくとも、ドラッグストアで「おススメの便秘薬はありますか?」と尋ねて薬剤師にすべて任せるのはやめておきましょう。
なぜなら、そのような質問を受けた薬剤師は、「そのお店が今売りたい薬」や「新しく発売された薬」などを勧めることが多いからです。
※ これはドラッグストアに勤める薬剤師からの情報です。すべてのドラッグストアが該当するわけではありません。
※ 当然便秘以外の疾患やほかに飲んでいる薬なども考慮されます。(例)腎機能に問題があれば酸化マグネシウムなどの下剤が勧められることはありません。
中には便秘薬(下剤)にかなり詳しい薬剤師もいるので、適切な薬を選んでくれることもあります。ただ、客である私たちには、その人がどのような考えを持っているか知ることはできません。そのため、ドラッグストアで薬を選ぶ際には、薬剤師にすべて任せるのは避けるようにしましょう。
そして例えば、「慢性的な便秘なのでできれば結腸刺激性下剤は避けたいです。何かおススメの便秘薬はありますか?」と尋ねれば、少なくともアントラキノン系の下剤が勧められることはないでしょう。
今回述べてきたように、日本の便秘治療はこれまであまり発展してきませんでした。そのため、アントラキノン系下剤のような長期使用に適さない薬が処方されたり勧められたりすることもあります。
これを防ぐためには、医療に対して受け身になりすぎず、自分自身が正しい知識を持つことが必要です。そうすることによって、確実に便秘解消に繋がっていきます。