ファスティング(断食)前の腸内フローラ:解析結果と考察

私たちのお腹の中にはさまざまな腸内細菌が住み着いています。これらの細菌は互いに影響しあいながら、一種の生態系を形成しています。

このような腸内細菌全体のバランスのことを「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」あるいは「腸内フローラ」といいます。この腸内細菌のバランスを良好に保つことが、健康の維持には大変重要と考えられています。

腸内細菌のバランスを調整する一つの手段として、「数日間のファスティング(断食)と食生活の改善」が有効といわれています。そこで、ある人(以下Aさんと記載します)の体験を元に腸内環境がファスティング前後でどのように変化するか実際に検証してみました。

ここでは、腸内フローラ解析の全体像とファスティング前の腸内フローラの検査結果を示していきます。自分の腸内フローラを検査したいと考えている方はぜひ参考にしてみて下さい。

腸内フローラの解析方法と検査キットの概要

2010年以降、腸内フローラの解析サービスを提供するベンチャー企業がいくつか現れました。今回、Aさんにはその中でも比較的有名な某企業の検査キットを用いて腸内フローラを解析してもらいました。

単刀直入にいうと、腸内細菌は「便」を解析することで調べることができます。

便の約80%は水分です。残りの20%のうち、剥がれた腸壁、食べ物のカス、腸内細菌がそれぞれ約7%ずつ含まれています。つまり、カピカピに乾燥した便の1/3は腸内細菌なのです。そのため、便を解析すれば、腸内細菌のバランスを把握できるのです。

実際には、下記写真の青い液体に浸かった歯間ブラシのようなものを便に突き刺して採便します。複数のアンケートに回答して、サンプルを郵送したあとは、検査結果が出るまで約6週間待ちます。

腸内細菌の解析を行っている病院やクリニックは少ないため、このような検査キットを用いることで、自宅でも簡便に腸内フローラをチェックすることができます。

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サンプルを受け取った企業は、便から「DNA」を抽出します。この作業により、便の中にいる腸内細菌のDNAもほぼすべて取り出されるのです。そして、取り出したDNAの情報を読み取ることで、どのような細菌が含まれているか調べることができるのです。

ファスティング前の腸内細菌バランス

ファスティング前の腸内フローラの解析結果について、以下に述べていきます。ただし、注意点が2つあります。

<注意点1>
採便時の食生活と得られた解析結果の関係を考察しています。ただ、Aさん一人だけの結果をもとに考察しているため、科学的なデータとしては不十分です。科学の世界では複数名(多い場合は数千人)の結果を元に考察するのが普通だからです。

したがって、下記の考察がすべての人に当てはまるわけではありません。

<注意点2>
自ら腸内フローラの解析を行う人は、腸内環境を意識した食生活を続けている人が多いと予想されます。そのため、表やグラフの中にある「平均」は一般的な日本人の平均というより、「腸内環境を意識している人たちの平均」と捉えてください。

この2点を踏まえた上で、以下の解説を読み進めてください。

腸内細菌バランスのタイプ
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世界中の人々の腸内フローラは、大きく「B型」「P型」「R型」の3つの型に分類されます。これを専門用語で「エンテロタイプ」といいます。

エンテロタイプは血液型と同じように説明されることがありますが、実際は違います。人の血液型は一生のうちで変化することはありませんが、エンテロタイプは食生活の影響を受けて変化するからです。

実際、「2週間食生活を変えることで、腸内細菌バランスが変わる」ということが証明されています(2015年に超一流科学雑誌「Nature Communications」に掲載されています)。

各タイプの特徴は以下の通りになります。

・B型の特徴
バクテロイデス属(Bacteroides)という種類の細菌が多いです。低炭水化物、高脂肪、高タンパク質の食事を続けているとB型になるといわれています。このような食事の傾向が強い欧米人や中国人に多いです。

・P型の特徴
プレボテラ属(Prevotella)という種類の細菌が多いです。食物繊維の摂取量が多い中南米や東南アジア、アフリカの人に多いです。また日本人においても、高炭水化物、低脂肪、低タンパク質の食事を続けているとP型になりやすいです。Aさんも当時はそのような食生活を続けていたので、妥当な結果といえます。

・R型の特徴
ルミノコッカス属(Ruminococcus)という種類の細菌が多いです。8割以上の日本人はこのR型に該当します。脂肪やタンパク質を比較的多く摂取しているとR型になりやすいです。

太りやすさ
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腸内細菌は肥満に関係します。これはさまざまな研究によって既に証明されています。そのため、腸内細菌のバランスを調べれば、太りやすいか太りにくいか判断することができます。

腸の中には約3万種類の腸内細菌がいます。この3万種類は大きく4つの種類に分類されます。難しい用語ですが、それらはバクテロイデス門、ファーミキューテス門、プロテオバクテリア門、アクチノバクテリア門という分類になります。

※ 「門」というのは腸内細菌を大きく分類するときの単位です。日本も大きく分類すると東北地方、関東地方、近畿地方などといいますが、このときの「地方」と同じような意味合いが「門」にはあります。

この4つの「門」のうち、ファーミキューテス門の細菌がバクテロイデス門の細菌より多いと太りやすくなります。上のグラフではこれを「FB比」として表しています。

Aさんの場合、ファーミキューテス門とバクテロイデス門の割合が約1:3だったので、太りにくい体質ということになります。

腸内細菌の多様性
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上述の通り、腸の中には約3万種類の腸内細菌がいます。ただもちろん個人差があります。多種多様な腸内細菌がいる場合は「多様性がある」といい、腸内細菌のバランスが偏っている場合は「多様性が低い」と表現します。

腸内細菌の多様性が低いと病気にかかりやすいといわれています。実際、潰瘍性大腸炎やクローン病といった腸の病気にかかっている患者では、腸内細菌の多様性は低下しています。

今回、ファスティング前の腸内細菌の多様性は「やや乏しい」という結果でした。食事が炭水化物や食物繊維に偏っていたことが一因かもしれません。肉類や脂肪もバランスよく摂取することで、腸内細菌の多様性を改善できる可能性があります。

ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌の割合
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いずれも代表的な善玉菌です。

ビフィズス菌
オリゴ糖などの糖類をエサにして、酢酸、乳酸、ビタミンといった体に良い物質を作ります。また酪酸菌に働きかけて、免疫機能の制御に需要な酪酸の産生を促します。

乳酸菌
ブドウ糖などの糖類をエサにして大量の乳酸を作ります。また、酢酸やギ酸なども作ります。これらはいずれも腸内環境を良い状態に保つ物質です。

酪酸菌
主に酪酸を作ります。酪酸は大腸のエネルギー源として働きます。さらに、過剰な免疫反応を抑制し、免疫の機能を正常に保つ役割もあります。

残念ながら今回は乳酸菌以外は、「やや少なめ」という結果でした。この原因について考察してみます。

ファスティング実施前のAさんは、市販のヨーグルトではなく自家製のヨーグルトを食べていました。自家製のヨーグルトには乳酸菌と酵母が含まれますが、ビフィズス菌が含まれていません。また、酪酸菌が多い「ぬか漬け」もほとんど食べていませんでした。つまり、ビフィズス菌や酪酸菌を体内に取り入れる食生活ではなかったことになります。

一方、ビフィズス菌や酪酸菌のエサとなる水溶性食物繊維(海藻やネバネバ系の野菜に多い)は積極的に摂取していました。

以上の状況から判断すると、水溶性食物繊維だけでは腸内のビフィズス菌や酪酸菌を増やすには不十分と考えられます。そして水溶性食物繊維に加えて、ビフィズス菌を含むヨーグルトや酪酸菌を含むぬか漬けなども同時に摂取することが有効と考察されます。

エクオール産生菌の割合
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エクオールは大豆に含まれるイソフラボンという物質から腸内細菌によって作られます。女性の更年期障害の改善や骨粗しょう症の予防に効果がある物質です。

約半分の日本人には、エクオール産生菌がいないという調査結果があります(2014年の日本疫学会での報告)。

しかし、グラフの一番下のバーは全体の約25%でした。つまり、この検査キットを使っている人に限っていうと、エクオール産生菌がいない人は4人中1人になります。

このことからも、<注意点2>に記したように、「この腸内フローラ解析を利用している人は、一般的な日本人よりも腸内環境が良い人が多い」ということが読み取れます。

なおエクオール産生菌は、大豆製品を食べることで増やせます。Aさんは1日1パックの頻度で納豆を食べていましたが、他の人と比べるとまだ少なかったのかもしれません。

腸内細菌の組成
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上述の通り、腸内細菌は大きくバクテロイデス門、ファーミキューテス門、アクチノバクテリア門、プロテオバクテリア門の4つに分類されます。

そして、普通はバクテロイデス門とファーミキューテス門の細菌が全体の約9割を占めます。バクテロイデス門とファーミキューテス門の割合は個人差が大きいため、平均と比べてバクテロイデス門が多いからといって特に問題があるわけではありません。

なお、プロテオバクテリア門やフソバクテリア門の中には健康に悪影響を及ぼす細菌が多いです。そのため、これらの細菌が多い場合は食生活を見直すべきです。

以上のように、検査キットを用いることで、自宅で簡便に腸内フローラを解析することができます。いくつかの企業がこのようなサービスを提供しており、その費用は企業によって数千円~数万円とピンキリです。

腸内フローラを解析してみたい人は、このようなサービスを利用するのが良いでしょう。また、解析結果を解釈する際には、このページの内容を参考にしてみてください。

※ ファスティングでどのように変化したか別途記載していますので、気になる方はそちらの記事をご覧ください。



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