ファスティング(断食)は古くから伝わる健康法である

「ファスティング(断食)は古くから伝わる健康法である」の要点

ファスティング(fasting:断食)はダイエット、腸内環境の改善、デトックス(体内から毒素を排出すること)などの目的で行われることがある健康法の一つです。

特に近年はファスティングによる健康法が世の中に広まり、多くの人々に注目されるようになっています。

そこで今回は、ファスティングが健康法として注目されるようになった背景や科学的根拠の一端を解説していきます。「飽食の時代」における、古典的な健康法にあなたも注目してみて下さい。


【筆者】山口 幸三

  • 2003年:北海道大学農学部 卒業
  • 2005年:北海道大学大学院農学研究科 修士課程 修了
  • 2005年~2017年:協和発酵工業株式会社(現 協和キリン株式会社)
    がんや腸内細菌に関するプロジェクトのサブリーダーとして研究を牽引。
  • 2019年:株式会社フローラボ設立
腸内環境に関する専門知識を背景に腸活関連の事業を推進。現在は、腸内フローラ解析にもとづいたパーソナル腸活(その人に合った腸活)のサポート、腸活ダイエットのサポート、腸活勉強会の主催などを行っている。


1.飽食の時代:食べ過ぎは万病の元

昔と違って、現代は「飽食の時代」と言われています。

現代の日本では、よほどのことがない限り、食べ物に困ることはないと思います。どこの家庭の冷蔵庫にも何らかの食べ物は入っているでしょうし、いざとなれば24時間営業のコンビニに買いに行くこともできます。

このような飽食の時代では、肥満生活習慣病(メタボリックシンドローム)が問題になります。

実際、厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、20歳以上の男性の31%、20歳以上の女性の21%が肥満であることが示されています。つまり、男性の約3人に1人、女性の約5人に1人が肥満なのです。

厚生労働_省の国民健康・栄養調査_肥満の割合
参照:厚生労働省 国民健康・栄養調査(2016年)


また、平成9年からの20年間で糖尿病とその予備軍が約1.5倍に増えていることも示されています。その人数はなんと2,000万人です。

厚生労働_省の国民健康・栄養調査_糖尿病・糖尿病予備群の人数
※ 厚生労働省 国民健康・栄養調査(2016年)の図を簡略化して記載

このように、飽食の時代では「食べ過ぎ」に伴うさまざまな問題が発生しています。このことから、「食べ過ぎは万病の元」と注意喚起している医師もいるほどです。

2.長寿の秘訣は「少食」である

「食べ過ぎが万病の元」であるならば、「健康に長生きする秘訣は少食」と考えることもできます。

実際、このことは科学的にも証明されています。2009年、米国ウィスコンシン大学の研究チームが「少食の猿は元気に長生きする」という研究成果をもっとも権威ある学術誌「Science」に発表したのです(参考文献:Science, 2009, Vol. 325, p.201)。

その概要を簡単に説明します。
<研究の概要>
  1. 76匹の成人の猿を38匹ずつ2組に分けました(グループAとグループBとします)。
  2. グループAの猿には普通の食事を与えました。
  3. グループBの猿にはグループAよりも30%少ない食事を与えました。
  4. グループAとグループBの猿の様子をずっと観察しました(20年以上)。
長年に渡る研究の結果、グループBの猿(食事量が少ない猿)のほうが元気に長生きすることがわかりました。グループBの猿は年をとっても見た目が若々しく、加齢に伴う病気(癌、糖尿病など)にもかかりにくかったのです。

下図はグループA(左)およびグループB(右)の28歳の猿です。猿の平均寿命が28歳なので、かなり高齢の猿になります。

普通食の猿と食事量を減らした猿の比較
参照:Science, 2009, Vol. 325, p.201

左(グループA)と右(グループB)の猿は同じ年齢であるにも関わらず、右の猿のほうが若々しいことがわかると思います。特に毛並みに関しては大きな違いがあります(下段の写真を比べてみてください)。

このように、「少食」が健康長寿の秘訣であることは科学的にも示されています。現代では、このことについて遺伝子レベルでの詳しい検証が進められています。

3.断食は世界中で古くから伝わる自然療法

ここまで述べてきたように、「食べる量」は私たちの健康と切っても切り離せない関係にあります。このような背景からも、ファスティング(断食)による健康法は世の中に広まっています。

また、世界には古くから「断食療法」という言葉があります。「食べずに病気を治す」ということが昔から試みられていたのです。

私は製薬会社の研究員として勤務していたので、このような民間療法を完全に信用しているわけではありません。ただ、世界中に断食療法にまつわるさまざまな言い伝えがあることも事実です。

ざっと調べただけでも以下のようなことわざや言い伝えが見つかりました。

<断食療法に関する世界のことわざ・言い伝え>
  • 断食で治らない病気は医者でも治せない(ドイツのことわざ)
  • 断食はメスを使わない手術である(フランスのことわざ)
  • すべての薬で一番良いのは休息と断食である(アメリカのことわざ)
  • 人間は食べる量の4分の1で生き、4分の3は医者のために食べる(エジプトのことわざ)
  • 腹八分目に医者いらず(日本のことわざ)
  • 病気は祈りと断食で治しなさい(イエス・キリストの言葉)
  • 病人に食べさせると病気を養うことになる。一方、食事を与えなければ、病気は早く治る(ヒポクラテスの言葉)

このように、多くのことわざや言い伝えが残されていることから、世界中で断食の有効性がある程度認められていたことがわかります。

断食ですべての病気を治せるとはまったく思いませんが、少なくとも病気の予防や健康の維持には一定の効果があると考えられます。

また、私の専門である腸内環境にも断食は影響します。なぜなら、断食後の食事に注意することにより、良好な腸内環境に導くことができると考えられているからです。そのため、ファスティング(断食)はダイエットだけでなく体全体のメンテナンスにつながります。

4.まとめ

  • 飽食の時代では肥満に悩む人が増えている。それに伴って、糖尿病などの生活習慣病にかかる人も増えている。
  • 健康長寿の秘訣は「少食」である。このことは科学的にも証明されつつある。
  • 世界中では古くから断食の有効性が認められていた。断食ですべての病気を治せるわけではないが、健康の維持には一定の効果があると考えられる。

今回はファスティング(断食)が健康法として注目されるようになった背景について述べてきました。ファスティングはダイエットをしたい人から注目されることが多いです。ただ、その効果はダイエットだけでなく腸内環境の改善を通じた体全体のメンテナンスにつながります。



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