大腸がんの原因物質「コリバクチン」と大腸がんの予防

1981年以降、日本人の死因第1位は「がん」です。実際、日本人の2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで亡くなるといわれています。

死因となるがんの種類は時代とともに変化しています。以前は日本人の癌といえば、「胃がん」が一位でした。ところが、食の欧米化に伴って大腸がんが増えてきました。実際、大腸がんの患者が最も多いという報告があります(2015年 国立がん研究センター発表)

このように、日本において大腸がんは増加傾向にあります。そして、大腸がんの発生に関係する腸内細菌もいくつか見つかっています。

大腸がんの発生に関わる腸内細菌として、クロストリジウム属という種類に分類される6種類の腸内細菌が発見されています。これらの細菌は、腸の中で「デオキシコール酸」という発がん促進物質を作ります。

※ 発がん促進物質:単独では発がん作用はありません。ただ、他に発がん物質が共存すると、その発がん作用を増強させる性質があります。

また、デオキシコール酸以外にも大腸がんの発生に関わる物質として「コリバクチン」という物質が知られています。これは特定の大腸菌が作る発がん物質です。

そこで今回は、「コリバクチンを作る大腸菌」、「コリバクチンの特徴」、「大腸がんの予防策」について述べていきます。大腸がんの予防は健康長寿にも繋がるので、ぜひ参考にしてみてください。

特定の大腸菌がコリバクチンを作る

大腸菌という名前を聞いたことがあると思います。名前は「大腸菌」ですが、実際は大腸だけではなく小腸にもいますし、食品に付着している場合もあります。

「腸内細菌=大腸菌」と考えている方も大勢いるのですが、実は大腸菌はかなり少ないです。すべての腸内細菌のうち、大腸菌は0.1%以下しかいないのです。このことを話すと驚かれることが多いのですが、これは事実です。私も研究者時代にラット(大きめのネズミ)の腸内細菌を何度も調べ、大腸菌がかなり少ないことを実感しました。

ただ、少数派の細菌であるにも関わらず、大腸菌は健康に大きく影響します。

例えば、食中毒の原因菌として有名な腸管出血性大腸菌O-157という細菌がいます。この細菌を食品などから摂取してしまうと、激しい腹痛や下痢などの症状が表れます。わずか50個程度の細菌が体内に入るだけで発症することもあるため、健康への影響力はかなり大きい細菌といえます。

※ 腸内細菌は100兆個以上いるといわれています。たった50個の細菌が原因で発症することを考えると、かなり影響力があるといえるでしょう。

その他に、接着性侵入性大腸菌という種類の大腸菌もいます。この大腸菌は腸の粘膜に侵入し、クローン病(消化管のところどころに炎症が起こって腸壁が深く傷つけられる病気)の原因になるといわれています。

このように、大腸菌は体に悪影響を及ぼすものが多いです。

そして、大腸菌の中には発がん物質である「コリバクチン」を作るものもいます。これまでに大腸菌IHE3034株という細菌がコリバクチンを作ることが分かっています。

それではコリバクチンの特徴について以下に述べていきます。

コリバクチンによる発癌作用

コリバクチンは人のDNAを傷つけます。そのため、コリバクチンと接触する大腸の上皮細胞(腸の表面にある細胞)が癌化することがあります。

ただ、コリバクチン単独では大腸がんは発生しません。それは無菌マウスを用いた研究から証明されています。つまり、無菌マウスにコリバクチンを作る大腸菌を飲ませても、大腸がんは発生しなかったのです。

※ 無菌マウス:体のどこにも細菌がいないマウスのこと。無菌マウスに特定の腸内細菌を食べさせることで、その細菌の特徴を調べることができます。

では、なぜコリバクチンは大腸がんの原因物質と考えられているのでしょうか? 

実はコリバクチンの発癌作用には「腸の炎症」が関わっているのです。

上述の通り、普通の無菌マウスにコリバクチンを作る大腸菌を飲ませても大腸がんは発生しません。ところが、腸に人工的に炎症を起こさせた後に、同じ大腸菌を飲ませると大腸がんが発生したのです。

このことから、腸の炎症部位でコリバクチンが作用することにより大腸がんが発生すると考えられます。

大腸癌を予防するためにできること

コリバクチンによる発癌作用には、「腸の炎症」が関与しています。そのため、炎症かコリバクチンのいずれかを抑制することが大腸がん予防に繋がります。

ただ、コリバクチンを作る大腸菌IHE3034株だけを殺菌したり、コリバクチンの生産を抑制したりする薬は今のところありません。そのため、我々にできることはできるだけ腸の炎症が起こらないようにすることです。

それでは、そもそも「炎症」とは何でしょうか?

「炎症」とは、細胞を傷つける原因物質(ウィルスなども含む)や死んでしまった細胞の残骸を除去する仕組みのことです。炎症は体に備わった防御機構ですが、慢性的な炎症は体に悪影響を及ぼすことがあります。

ただ健康な腸であれば、炎症を抑える細胞が存在します。この細胞のことを「制御性T細胞(Treg:ティーレグとも呼ばれます)」といいます。

このことから、制御性T細胞の数を増やせば、腸の炎症が抑えられて、大腸がんの予防に繋がることがわかります。

そして、制御性T細胞の数を増やす物質が「酪酸」です。

酪酸は酪酸菌によって作られます。代表的な酪酸菌としては、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)やクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)などが挙げられます。特に某メーカーのサプリメントには後者の酪酸菌が大量に含まれています。

また、ビフィズス菌には酪酸菌に働きかけて、酪酸の産生を促す作用があります。

以上をまとめると、「ビフィズス菌や酪酸菌の摂取 → 腸内の酪酸量の増加 → 制御性T細胞の増加 → 腸の炎症抑制 → 大腸がんの予防」という流れで大腸がんを予防できることが分かります。

今回述べてきたように、大腸菌はさまざまな疾患を引き起こします。特にコリバクチンを生産する大腸菌は大腸がんの原因になります。ただ、ビフィズス菌や酪酸菌を摂取して腸内の酪酸量を増やすことで、炎症が抑制され、発がんを予防することができます。このことを理解したうえで、日々の食生活やサプリメントなどで腸内環境を整えるよう心がけましょう。



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