クローン病における善玉菌の効果

クローン病とは、消化管のところどころに潰瘍が生じる炎症性腸疾患です。

※ 潰瘍(かいよう):消化管の表面を覆っている粘膜が、炎症を起こして剥がれ落ちること。
※ 炎症性腸疾患:消化管に炎症が生じる疾患。クローン病と潰瘍性大腸炎がこれに該当します。

この病気は完治する治療法が確立されておらず、厚生労働省から特定疾患(≒難病)に認定されています。

また、この病気の特徴として、消化管に炎症が生じて症状が表れる「活動期」と、炎症が治まって症状のない「寛解期」が繰り返されます。そのため、症状が治まったからといって安心することはできません。

なお、さまざまな研究から、クローン病の発症や症状緩和に腸内細菌が関与していることが明らかとなっています。ここでは、クローン病に有効であることが示されている腸内細菌の例を紹介します。

潰瘍性大腸炎と比べて善玉菌の効果は得られにくい

クローン病患者に善玉菌を飲ませてその効果を検証した臨床研究はいくつかあります。しかし、潰瘍性大腸炎の場合ほど有効な例はありません。

各種の文献で調べた限り、善玉菌による寛解導入効果(病状を緩和し、寛解状態に移行させる効果)および寛解維持効果(再燃を防止し、寛解を維持する効果)が認められたのはそれぞれ一例ずつです。文献によっては、「クローン病に有効なビフィズス菌などの細菌製剤はない」と記載されている文献もあるほどです。

まず、寛解導入効果を示したのは、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)という乳酸菌でした。この乳酸菌はバクテリオシンという抗菌ペプチドを産生するという特徴があるため、この物質が何らかの影響を与えたのかもしれません。

また、寛解維持効果を示したのは、サッカロミセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)という酵母でした。この酵母には炎症抑制物質を産生する性質があります。そのため、炎症を抑えることで再燃を予防できた可能性があります。

このように少ないながらも、クローン病に有効な善玉菌の例というのはあります。ただ、有効ではないという例が多いことは留意しておく必要があります。

善玉菌による術後寛解維持効果

クローン病あるいは潰瘍性大腸炎のいずれであっても、投薬治療で症状が改善しなかった場合は最終的に病変部を摘出する手術が行われます。

ただ、クローン病と潰瘍性大腸炎の大きな違いとして、クローン病では再発率が非常に高いという点が挙げられます

潰瘍性大腸炎の場合は、あまり再発リスクは高くありません。一方、クローン病の場合は、術後1年以内に8割近くの人が再発するというデータがあります。そのため、術後もクローン病治療薬であるメサラジンという薬を予防的に飲み続ける必要があります。

そこで、術後の寛解維持効果を検証した例があります。それは、5種類の乳酸菌と3種類のビフィズス菌を粉末化したVSL#3という薬の効果を検証したものです。

手術後、メサラジンを1年間服用した場合の再発率は約40%でした。一方、抗菌剤を3ヶ月間服用した後、VSL#3を9ヶ月間服用すると、再発率は約20%に下がりました。つまり、VSL#3は治療薬であるメサラジンと同等以上の寛解維持効果があったのです。

今回述べてきたように、クローン病においては、潰瘍性大腸炎の場合ほど、善玉菌は効果を発揮しません。そして、この理由は解明されていません。クローン病は、消化管全体に病変が生じることが多いため、小腸や大腸に定着する細菌だけでは効果が不十分なのかもしれません。

いずれにしましても、クローン病は難病であり、寛解したとしてもその状態を維持するために薬を飲み続ける必要があります。そのため、罹患しないように予防することが最も重要となります。普段から食生活や生活習慣に気をつけて腸内環境を整えておくことで、罹患リスクを下げるよう努めることが大事です。



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