宿便の定義:腸壁にこびり付く便は存在しない

便秘に悩む人であれば「宿便(しゅくべん)」という言葉を聞いたことがあると思います。

健康やダイエット関連の書籍では「数週間以上の長期にわたり、腸壁にこびり付いている便」のことを宿便と記載していることがあります。このような宿便は本当に存在するのでしょうか?

複数の書籍を確認しましたが、宿便の有無については著者によって見解が異なります。便秘外来を開設している専門医であっても、「宿便はない」という医師がいれば、「宿便はある」と記載している医師もいます。このように意見が割れる理由は宿便の定義があいまいだからだと思われます。

そこで今回は、宿便の定義について述べながら、本当に存在するものかどうかについて解説していきます。便秘に悩む人にとっては気になる内容と思いますので、参考にしてみてください。

「腸壁にこびり付いている便」は存在しない

「宿便」という言葉は医学の専門用語ではありません。そのため、厳密な言葉の定義はありません。

ただ、これまでに得られている医学的な知見を考慮すると、「便が腸壁にこびり付く」ということはあり得ません。したがって、「宿便=腸壁にこびり付いている便」と定義する場合は、宿便は存在しません。このように考える理由を以下に述べていきます。

腸の表面にある細胞は常に生まれ変わっている
腸の表面(食べた物と接する部分)にある細胞は、常に新しい細胞と入れ替わっています。

小腸であれば1.5~4日程度で新しい細胞に入れ替わりますし、大腸は1週間~10日程度で入れ替わります。置き換えられた古い細胞は腸の表面から剥がれ、便として排出されます。

腸の表面にある細胞が剥がれ落ちているのに、「便が腸壁にこびり付く」ということはあり得ません。

実際、腸内細菌研究で著名な理化学研究所の辨野(べんの)先生も、この理由から「宿便は存在しない」と述べています。また便秘や下痢の専門医である水上先生(久里浜医療センター)も書籍の中で、「宿便は存在しない」と記載しています。

動物実験の経験
私は消化器内科医や外科医ではないので、人の腸を見たことはありません。ただ、腸内細菌の研究に従事していた経験から「マウスやラットの腸」は何度も見てきました。

※ラット:マウスを10倍ぐらい大きくしたもの

少なくともこれらの動物において、腸壁に便がこびり付いていることはありませんでした。あくまで動物の例ですので、同じことが人に当てはまるとは言い切れません。ただ、そのような経験から、私自身も「腸壁にこびり付く便は存在しない」と考えています。

「長期間腸内に滞留している便」は存在する

「宿便=便秘などが原因で腸内に滞留している便」と考えるケースもあり、この場合、宿便は存在します。

便秘外来を開設している順天堂大学の小林先生は書籍の中で、「宿便が3kg存在する」と記載されています。小林先生は、「腸壁にこびり付く」という表現を使っていないため、単に長期間腸内に滞留している便のことを指していると思います。

この ”3 kg” という値が何に基づいて算出されているかはわかりませんが、「長期間滞留している便」という意味であれば、宿便は存在すると考えてよいでしょう。

ここまで述べてきたように、「宿便」は医学的な用語ではないため、厳密な定義がありません。ただ、「腸壁にこびり付いている便」という意味での宿便は存在しないと考えて構いません。ある種の健康本やダイエット本に記載されている宿便は医学的には間違った内容ですので、過度に心配する必要はありません。

一方、「便秘などが原因で腸内に滞留している便」という意味であれば宿便は存在します。早期に便秘を解消することでそのような便も排出できますので、このサイトに記載されている内容を参考に便秘を解消するように心掛けてみましょう。



無料動画セミナーのご案内