精神的ストレスは腸内環境を悪化させる


大事な会議や試験、スポーツの試合がある日の朝などに、便秘や下痢になった経験はないでしょうか? このような心理的ストレスのかかる状況では、便秘や下痢などの症状が現れることがあります。

これは、脳が受けたストレスが腸に影響しているからです。

現代社会はストレス社会とも呼ばれています。ストレスを減らすのは難しいかもしれませんが、腸内環境を意識した食生活を普段から心がけることにより、便秘や下痢をある程度予防することはできます。これは、ストレス社会を生き抜く上でも大事な生活の知恵となります。

そこで今回は、ストレスと腸内環境との関係について述べていきます。

【筆者】山口 幸三

  • 2003年:北海道大学農学部 卒業
  • 2005年:北海道大学大学院農学研究科 修士課程 修了
  • 2005年~2017年:協和発酵工業株式会社(現 協和キリン株式会社)
    がんや慢性腎不全の治療薬研究に従事。また、腸内細菌に関するプロジェクトを社内で初めて立ち上げ、プロジェクトサブリーダーとして研究を牽引。
  • 2019年:株式会社フローラボ設立
腸内環境に関する専門知識を背景に、腸活関連の事業を推進。健康食品の開発・販売、ファスティングや腸活ダイエットのサポート、事業者向け腸活勉強会などが主な仕事。企業などから講演を依頼されることもある。

ストレスによってお腹の調子が悪くなる


ストレスが原因でお腹の調子が悪くなることはよくあります。ここではそのような例を3つ紹介します。

徳川家康の例

まずは、天下統一して江戸幕府を開いた徳川家康の話です。偉大な将軍ですが、家康には「極度のストレスが原因で脱糞してしまった」というエピソードがあります。


徳川家康(狩野探幽画、大阪城天守閣蔵/画像はWikipediaより)


1572年「三方ヶ原の戦い」で、織田信長と徳川家康の連合軍は、武田信玄軍と戦いました。この戦は武田信玄の圧勝でした。わずか2時間で決着がつき、甚大な被害を受けた家康は敗走することになったのです。

この敗戦は家康にとって人生最大の危機だったと言われています。そして、命からがら浜松城に逃げ帰る途中、極度のストレスに見舞われた家康は脱糞してしまったのです。そのことを家臣から指摘された家康は、「これは味噌だ!」と言い放ったという逸話があります。

このように、家康ほどの人物でも極度のストレスが原因で脱糞するほどお腹の調子を崩したのです。これは少々極端な例ですが、「ストレスと腸の関係」を語るときに私がよく使うエピソードです。

宇宙飛行士の例


1970年代の調査になりますが、NASA(米国航空宇宙局)が宇宙飛行士の腸内環境を調べました。

そして、長時間の精神的ストレスが生じる宇宙飛行訓練を行うと、善玉菌であるルミノコッカスが減少し、悪玉菌であるバクテロイデス・ユニフォルミス(Bacteroides uniformis)が増えることが確認されました。

また、ロシアの宇宙飛行士においても同様の調査が行われました。やはり宇宙飛行訓練を行うことで、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が減少し、大腸菌やクロストリジウムなどの悪玉菌が増えました。

このように、宇宙飛行士を対象とした調査から、「ストレスがかかると腸内細菌のバランスは悪化する」ということが判明したのです。


現代サラリーマンの例


ここまで述べてきたように、精神的なストレスは腸内環境を悪化させます。そして、このことは多くの現代サラリーマンを悩ませている「過敏性腸症候群」と深い関係があります。

過敏性腸症候群とは「検査で異常が見つからないにも関わらず、腹痛、下痢、便秘などの症状が慢性的に続く症状のこと」です。

ストレスや不安などの精神的な負担が原因であることから、通勤途中や大事な会議の前に症状が出やすいという特徴があります。そのため、過敏性腸症候群は「現代病」とも呼ばれています。実際、消化器内科を訪れる患者のうち、もっとも多い症例が過敏性腸症候群だと言われています。


脳腸相関:脳が腸の働きを制御している


ここまでの説明で「精神的なストレスが原因で腸内環境は悪くなる」ということがわかったと思います。それでは、なぜストレスが腸内環境に影響するのでしょうか?

実は、脳と腸は密接に関係しています。具体的には、自律神経やホルモンを介して、脳と腸はやり取りをしているのです。これを専門用語で「脳腸相関」と言います。


※ 自律神経:体の調子を自動的に調節してくれる神経のこと。例えば、「汗をかく」「胃液が分泌される」などの体の反応は、自律神経の働きで自動的に行われています。


自律神経には「交感神経」と「副交感神経」という二つの神経があります。それぞれの特徴は以下のとおりです。

交感神経ぜん動運動(食べた物を肛門方向へ移動させる収縮運動)を抑制する
副交感神経ぜん動運動を活発にする

これらの自律神経はストレスなどが原因で正常に働かなくなることがあります。そのため、過度なストレスがかかると腸のぜん動運動がうまく制御されず、便秘や下痢などを生じることになるのです。

このように、腸は脳からの司令を受けて動いています。実際、腸には他の臓器よりも多くの神経細胞が集まっています。そのため、腸は「第二の脳」とも呼ばれているのです。

まとめ

  • 精神的なストレスが原因で腸の動きが乱れたり腸内環境が悪化したりする。
  • 多くの現代サラリーマンを悩ませている過敏性腸症候群の主な原因は精神的ストレスである。
  • 脳と腸は密接につながっている。これを「脳腸相関」という。
  • 腸には数多くの神経細胞が集まっている。そのため、腸は「第二の脳」とも呼ばれる。
今回はストレスと腸内環境の関係について述べてきました。現代社会では、ストレスは切っても切り離すことができません。このようなストレス社会の中で腸内環境を悪化させないためにも、普段の食生活でお腹の調子を整えておくことはとても大切なのです。


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