大麦のβ-グルカンによるダイエット効果は、「血糖値の上昇抑制」と「満腹感の維持」という二つの作用で説明できます。いずれの作用もさまざまな実験によって既に証明されています。
ここでは、「血糖値の上昇抑制」に着目して、β-グルカンのダイエット効果について解説していきます。普段の食事に大麦を取り入れることで、血糖値の上昇を抑えながらダイエットを行うことができるので、体重や血糖値が気になる方はぜひ参考にしてみてください。
※ 大麦は麦ごはんに使用される「押し麦」や「もち麦」という名称で市販されています。いずれもご飯に混ぜて炊くだけで簡単に調理できる食材です。
インスリンは血糖を脂肪に変える
β-グルカンによるダイエット効果を理解するためには、血糖値とインスリンに関する知識が必要なため、以下にその概要を簡単に記載します。血糖値とはその名の通り、血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度のことです。空腹時(食事9時間後)の血糖値が70~109 mg/dL、食事2時間後の血糖値が140 mg/dL以下であれば正常です。
また、インスリンは血糖の上昇に応じてすい臓から分泌されるホルモンです。インスリンには、血糖値を下げる働きがあります。実際、一部の糖尿病患者はインスリン注射を行うことで血糖値を下げています。
では、インスリンはどのように血糖値を下げるのでしょうか? 実は、インスリンはブドウ糖をグリコーゲンと中性脂肪という物質に変換しています。そのため、血液中のブドウ糖濃度は下がるのです。
血液中のブドウ糖はまずグリコーゲンという物質に変換され、筋肉や肝臓に蓄えられます。それでも血糖値が高い場合、残りのブドウ糖は中性脂肪に変換されて、脂肪細胞の中に蓄えられます。
世の中には、「糖質制限」というダイエット方法がありますが、これはインスリンによる脂肪蓄積作用に着目した方法です。つまり、「糖質や炭水化物の摂取量を減らす → 血糖値が上がりにくくなる → インスリンによる脂肪蓄積量が減る」という流れで、ダイエット効果が得られるのです。
ここまでに述べてきたことから、肥満の予防・解消には、血糖値の上昇をできるだけ抑えることが重要であることがわかります。
そして、大麦のβ-グルカンには食事による血糖値の上昇を抑える働きがあるのです。
β-グルカンは食後血糖値の上昇を抑制する
大麦のβ-グルカンが血糖値の上昇を抑制することを示した研究があります。その内容について紹介します。(参考文献:Am J Clin Nutr, 2008, 87, 645)
<試験の内容>
- 21~41歳の健康な男性7名、女性5名の計12名を対象に試験を行いました。
- 12名全員に、小麦パン or 小麦パンと大麦食物繊維 or 大麦穀粒 or 小麦穀粒 or ライ麦穀粒などを朝食に食べてもらいました(穀粒とは麦の粒の部分です)
- 食後の血糖値の変化を測定しました。
各食材を食べた後の血糖値は、以下のグラフのように変化しました。
グラフを見てわかる通り、摂取した穀物の中では、大麦穀粒はあまり血糖値を上昇させません(緑のライン)。
さらに注目すべき点は、大麦食物繊維による血糖値の抑制効果です。小麦パンを食べると30分後には血糖値が50 mg/dL近く上昇します(青のライン)。このとき大麦食物繊維を同時に摂取することで、血糖値の上昇が抑えられていることがわかります(赤のライン)。
大麦食物繊維のほとんどはβ-グルカンです。つまり、β-グルカンが血糖値の上昇を抑えているのです。そして上述の通り、インスリンの分泌が抑えられることによって肥満予防やダイエットに繋がるのです。
β-グルカンが血糖値の上昇を抑えるメカニズム
最後に、なぜβ-グルカンが血糖値の上昇を抑えるかについて簡単に述べます。大麦β-グルカンは水溶性食物繊維であるため、水に溶けてドロドロになります。ドロドロになったβ-グルカンは糖や脂質などの栄養素と結合しやすくなる性質があります。そのため、これらの栄養素が体内へ吸収されるのを抑制できます。
さらに、β-グルカンは腸管内における「糖質取り込みに関わるトランスポーター」の数を減少させます。トランスポーターとは細胞表面にある「扉」のことです。β-グルカンの作用によって、糖質を取り込む扉が減ったため、糖質を吸収できなくなるのです。
ここまで述べてきたように、β-グルカンはさまざまなメカニズムで糖質の吸収を抑え、血糖値の上昇を抑制します。その結果、インスリンの分泌が緩やかになり、脂肪が蓄積されにくくなります。体重増加や血糖値が気になる方は、普段の食事に大麦などのβ-グルカンを取り入れることを検討してみてください。